絶対帰るから (短編1頁)





『ミュンヘン発ルフトハンザLH402便は到着に遅れが出ております』


空港内にアナウンスが流れた。



「あー、やっぱり遅れたか」

「今年の雪は半端ないからなぁ」


周りの出迎え客や乗り換え客達が一斉に嘆き声を上げる。



「イブだから、どの便も満席。振り替えなんて無理だ」

「空港で夜明かしか?イブなのに?」

皆、頭を抱えている。




そんな悲鳴を横目に、荒北は空港内を歩き出す。


飛行機の遅延なんて日常茶飯事。
特に今年のクリスマスはどこも天候が悪い。
クリスマス休暇を楽しむ人々が世界中で足止めを喰らっているのだ。



「辛いのは乗客だってパイロットだって同じだァ」


荒北はカフェでコーヒーでも飲もうかと思ったが、空港内は生憎どの店舗も満席だった。




所在無くブラブラと歩きまわり、屋上の展望デッキの扉を開ける。


ビュウッ!

寒風に一瞬怯むが、そのまま外へ出た。



「寒ゥい!」

当たり前の言葉が口から出る。

荒北はダウンの前を閉じ、ポケットに手を入れた。


それでも展望デッキにはパラパラと物好きな人間が数人居た。

ほとんどはカップルだ。

搭乗予定が無くとも、空港をデートコースにする恋人達は多い。


「……」

そんなカップルをチラ見し、誰もいないフェンスの前に立つ。



離陸する機体、到着する機体、待機中の機体。

ボーッと眺めているだけで、なんとなく気が紛れる。


上空を見上げ、着陸体勢に入っている機体を見やる。



「……ここで見てたって、アイツの乗った飛行機が早く着くわけじゃねーし……」


わかってはいるが、ついつい到着機に目が行ってしまう。



ヨーロッパは遠い。

直行便よりも、ハブ経由が殆どだ。

今日はどの国の空港も大混乱だろう。




「……イブだからって、何も特別な日じゃねェ。普通に仕事してる人だって多いんだ」



特にクリスマスに会うつもりなどなかった。

自分も仕事だし、イギリスに強化遠征中の新開が帰国出来る筈もない。





── 絶対!絶対帰るから!イブをおめさんと過ごしたいんだ! ──





「無茶ばっか言いやがって。学生時代からアイツぁ天然で、ワガママで……」


もしかしたら今頃、機内でジタバタと駆け足でもしてるのかも、と想像したら吹き出しそうになった。


「!」


一人でニヤニヤしていたら、カップルに怪訝な顔で見られた。


「見てンじゃねーヨ!」

思わず悪態をつく荒北。
ビビるカップル。



「ケッ」


荒北は展望デッキを去り、建屋内に入った。








到着ロビーに戻り、案内板を確認する。

相変わらず遅延の表示がズラリと並んでいる。


「……」


予定通りなら、もうとっくに到着しているはずだ。

ある程度の遅延は覚悟していたが、これは今夜中には着かないかもしれない。




空港内には大きなツリーが飾られ、華やかな電飾で彩られている。

BGMもクリスマスソングばかりだ。


ロビーでは、久々に会えたのであろうカップル達が幸せそうに抱き合っている。


「……」









数時間が過ぎ、人も減ってきた。

荒北と同様、待っている人達はみんなくたびれている。




「……イブが終わっちまうよ新開ィ……」


窓の外を眺める荒北。



「オレはなにも期待なんかしてなかったのにヨ……。オメーが絶対帰ってくるって力説すっからァ……」



窓の曇りに指先で「しんかい」と書きながら呟く。



「クリスマスなんてサ、そんなもんがあっから無駄に寂しい思いすンだ……。いつも平日ならサ、こんな期待しなくて済むのにサ……」




そろそろ深夜0時になろうとしている。




「……絶対帰るから、って……言ったじゃねェか。……イブを一緒に過ごしたい、って……」











「靖友!」

「!!」


その時、背後から新開の声がした。

驚いて振り向く荒北。



新開が立っていた。




「エ……?オメーの飛行機、まだ到着予定は……」


困惑する荒北。



「ドイツ経由は絶対大幅に遅れると思ったから、エジンバラからインド経由にしたんだ!大正解だよ!」


ドヤ顔の新開。

両手に大きなリボンのついた包みを抱えている。


「間に合った!イブに間に合ったよ靖友!」


満面の笑みが輝いている。



「……」


涙が滲んでくる荒北。




「ん?窓に“しんかい”って書いてある……?」

「うるせェ!!」


荒北は罵倒しながら新開に飛び付いた。








メリークリスマス!















おしまい







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イイネ