イブの運び屋 (短編2頁)





順調に配達をこなし、あと半分程残した頃だった。




「雪だ!」



雪が降ってきた。




「ホワイトクリスマスか。ロマンチックだな」

空を見上げて新開が言った。


「なァにがロマンチックだ!」

荒北は即座に否定した。



「箱根の雪ナメんなよ!これはえらいことになるゼ」






荒北の言った通り雪はどんどん酷くなり、積もってきた。



「チャリじゃもう無理だ!」


二人はチャリを店に置き、徒歩で配達を始めた。

他のバイト達も慌てている。



「なんとしても今夜中に届けるんだ!」









予定よりも大幅に時間をオーバーしたが、なんとか全員無事配り終えた。


もう深夜である。

あと数十分でイブも終わりだ。



「みんなお疲れ様。雪で大変だったのにやり遂げてくれてありがとう。バイト代弾んどいたからね。サンタの服はあげるから。気を付けて帰るんだよ。もし良かったら来年も頼むね」


店主は感謝の意を伝えた。


バイト代とクリスマスケーキを受け取り、全員解散となった。






サンタの格好のままケーキを乗せたチャリを手で引いて、寮へ向かって雪の中を歩く二人。



「……ヘトヘトだ」

ゲッソリしている新開。


「オレぁやり遂げて満足してる」

荒北は充足感でいっぱいだった。





駅前広場に差し掛かった時、新開が叫んだ。


「ヒュウ!すげぇ!」



見ると、駅前に飾られた巨大なクリスマスツリーが雪で覆われ真っ白に輝いていた。


深夜だが結構人出があり賑わっている。


ツリーの電飾が雪の間からきらびやかに点滅していた。



「なんか願い事が吊るされてるぜ」

「七夕じゃねっつーの」


ツリーを見上げていると、バイトの疲れも癒されてきた。




「新開……」

「ん?」


「このケーキ、オメーにやる」

「は?」




荒北は新開の目をまっすぐ見て言った。

「……元々、オメーにやるつもりでバイト応募したんだ。イブに色々予定入ってるオメーでも、夜寝る前にオレがケーキ出したらオメー、絶対食ってくれるだろうって思って……」


「え……。オレにくれるために……?」

驚く新開。


荒北の計画はなんだかよくわからないが、とにかくイブの日に自分にケーキをプレゼントしたかったのだということは伝わった。



「靖友……オレは……」


新開は自分も本当の気持ちを伝えることにした。



「オレは、おめさんとイブを一緒に過ごしたかったんだ。それがバイトでもなんでも良かった」


「エ……?」




クリスマスツリーの前で互いに真っ赤になって顔を見合せる二人。




「じゃ……そのケーキありがたく貰うよ。オレもこのケーキおめさんにやる」

「中身全く同じじゃねェか」


「モノは何だっていいんだよ。大事なのは、気持ちだ」

「気持ち……」



サンタの格好のまま、ツリーの前で二人はケーキを交換した。




「なぁ靖友……。明日のクリスマスも……オレと一緒に過ごしてくれる……?」


「ウ……。べ、別にイイけどォ……」




二人はしばらくモジモジとしていたが、また雪が強くなってきたのでチャリを引いてゆっくり寮へ帰って行った ──。







メリークリスマス!













おしまい





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イイネ