イブの運び屋 (短編2頁)





~12月中旬~




教室でチラシを手に眺めている荒北。




「靖友」

そこへ新開がニコニコしてやってきた。


「なにそのチラシ」

荒北の手から奪う。





「……クリスマスケーキの配達のバイト?イブの日に?」





荒北が見ていたのは、学校近くのケーキ屋で12月24日にケーキを配達するバイト募集のチラシだった。



「運び屋のオレにピッタリな仕事だろ?」

荒北はドヤ顔だ。


「終わったらバイト代の他にホールケーキひとつ貰えるらしいしヨ」


「オレもやる!」
「ハァ?」

新開の申し出に驚く荒北。



「ケーキに目が眩んだのか!卑しいヤツだなァ。だけど……イブの日だぜ?オマエ予定あるンだろ?その、色々と」


モテモテの新開だ。
イブの日なんか当然色っぽい予定が入ってるに決まっている。
荒北はそう思って尋ねた。


「予定なんか無いさ。イブの日は毎年女子達がプレゼント持って来るから応対するのが大変なだけだ。バイト入れりゃ、そんなめんどくさいことから逃げられる。よし!応募するぞ!」


新開はそう言うと早速チラシに書いてある番号に電話をかけ始めた。



「……」


その様子を荒北はポカンと眺めていた。












~イブ当日~





荒北と新開はチャリと共にケーキ屋に来ている。


店内にはケーキの箱が山のように積まれていた。

バイトの配達員は10人程集まっている。


ガーネルザンダースに似た、そのままサンタの格好が似合いそうな店主から説明を受ける。


エリア毎にグループ分けされ、配達先の住所氏名と地図が印された用紙が配られた。



「みんな、これ着てね」


店主から手渡されたのは、サンタの服と帽子だった。


それを身に纏うと、バイト達はみんな顔を見合せ笑顔になる。



「似合うよ靖友」

ウインクする新開。


「ヘッ。オメーもなァ」

お互いを誉め合う。



「みんな急がなくていいからね。それより絶対転ばないように。ゆっくり確実にお届けしてくれ。まず近場から始めて、慣れてきたらだんだん遠くへ。店と何度も往復してもらうことになるけど、もし道に迷ったらすぐに連絡してね」



一通り説明を終え、バイト達は一斉に散開した。



同じグループの新開と荒北は、チャリにケーキを積んで走り出す。


「速さを競うわけじゃないんじゃ、オレの特技が活かせねぇな」

「運び屋は確実に届けるのが仕事だゼ。何が起こってもな」


「おめさんと一緒に仕事なんて初めてだ。すげぇ嬉しい」

「……そ、そォ?」


荒北は顔の赤面を隠すようにスピードを上げた。


「おい靖友!急ぐなって言われたのに」


新開は慌てて後を追った。



















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イイネ