告られて (短編3頁)





「オホホホ!捕まえてごらんなサァイ!」

 

荒北は軽快に山を登っていた。

 

暫く進んで後ろを振り返ると、当然誰もいない。

 

「まあ、来れるわけないよな」

 

荒北は速度を緩めた。

 

ちょっと可哀想だったかな、と反省してみる。

もう少ししたら戻るか。

あんまりコースから外れて大騒ぎになっても困るしな。

 

荒北がそう考えている時……。

 

 

ジャッジャッジャッ……。

 

ん?

 

ジャッジャッジャッジャッ。

 

この音は……。

 

まさか……。

 

 

「……るる」

 

え?

 

「……るるるる」

 

ええ?

 

 

 

後ろから追ってきたのは新開だった。

しかも、目が赤く光っている!

 

「ウソだろオイ!」

 

荒北は慌ててペダルを漕ぎ始めた。

 

物凄い形相で鬼が迫って来る。

 

 

 

「あるるるるるるるる!!」

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

この恐怖は鬼に追いかけられた者にしかわからないだろう。

荒北は全速力で逃げた。

しかしみるみる距離が縮まってゆく。

 

 

あンの!

バァカ!

まさか!

山で!

鬼を!

 

なんて無茶しやがる!

なに考えてんだアイツ!

 

 

 

 

……アイツ、そんなにもオレを……。

 

 

 

 

ふと、新開の唸り声が聞こえなくなったことに気付き後ろを振り向いてみると、新開はもう通常モードに戻っていた。

 

そして荒北が振り返るのを待ち構えていたかのように、右腕をゆっくりと真っ直ぐ前方に伸ばし、親指を上げ、人差し指を荒北に向けた。

 

 

「!!」

 

そのポーズは……!

 

 

 

新開はしっかりと荒北に狙いを定め、言った。

 

 

「バキュン!」

 

 

 

 

その瞬間、背景が真っ白になった。

 

 

 

山も木々も道路も何もかも消えてしまった。

 

 

 

新開の姿しか見えない。

 

 

 

 

全てがスローモーションになってしまい、夢の中のような妙な感じだ。

 

 

 

 

── 捕まったら、おまえの負けだぞ ──

 

 

 

 

東堂……悪りぃ……。

 

せっかく忠告してくれたのにオレ……。

 

 

 

 

……捕まっちまった……。

 

 

 

 

 

心臓を撃ち抜かれた荒北が減速してしまったので、新開はそのまま難なく荒北に追い付いた。

 

そして両手を伸ばし、荒北を抱き締める。

 

二人の自転車は右カーブをコースアウトして行き、

 

「え?ちょ、バカ野……!」

 

荒北は正気に戻ったが、時既に遅く、

 

ガシャガシャーーン!

 

二人は落車し、

 

「う わ わ わ わ !」

 

そのまま林の中へ転がって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼人!荒北!」

 

東堂の声が聞こえる……。

 

荒北は木の枝を杖代わりにヨロヨロと草むらを車道に向かって歩いていた。

 

「荒北!」

 

東堂の姿が見えた途端、荒北は崩れ落ちた。

 

「大丈夫か!……おまえ達二人がコースを外れ山に入って行ったと後輩達から聞いて慌てて登ってきたが……隼人はどうした」

 

ガサガサと音がして、新開が草むらから姿を現した。

 

パワーバーを食べながら鼻歌を歌っている。

 

「隼人!おまえ荒北をこんなになるまで……」

 

「ん?だからケンカなんかしてないって尽八」

「まだ言うか!」

 

 

 

新開と東堂が言い争っている声が聞こえる。

 

……くっそ。

 

ホントに無茶苦茶にされた……。

 

新開の野郎、いったい何発……猿か!アイツぁ!

しかも!野外で!

 

っざけんな畜生。

 

目が覚めたらシメる。

ぜってーシメる。

 

 

荒北の意識は遠退いていった……。

 

 


 

おしまい

 




 
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