告られて (短編3頁)
ドン!!
翌日、練習後の部室で荒北は新開に壁ドンされていた。
勢い余って立て掛けてあったローラー台がガシャンと倒れたので、正確には壁ドンガシャンだ。
「靖友。昨日の返事くれよ」
新開は思い詰めたような顔をしている。
「2、3日待てっつっただろーが。まだ1日だぜ」
荒北はそう答えたが、新開の尋常じゃない雰囲気にたじろいでいた。
「待てないよ。じらさないでくれ。今すぐyesって言ってくれよ」
新開は息を荒げ、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
「おまえ余裕無さ過ぎだよ。そんなあせんなって」
荒北はビビりながらも、なんとか新開をなだめようとする。
「おめさん目の前にして余裕でいられるわけないだろ!yes貰ったら速攻で無茶苦茶にしたいぐらいだ!」
「オレ返事した途端に無茶苦茶にされんのかよ!ヤだよそんなの!」
「ケンカは外でやらんかケンカはー!!」
「!」
「!」
ガラッと部室の入口が開き、入って来たのは東堂だった。
新開は驚いてパッと荒北から離れた。
「尽八……まだいたのか」
東堂を睨み付けて新開は言った。
「ああいたとも!神聖な部室でケンカは許さんぞ隼人よ!」
東堂の剣幕に新開は観念し、肩をすくめて大きく息を吐いた。
「ケンカなんかしてないよ俺達」
「嘘をつくな!荒北に今にも襲いかからんとしていたではないか!」
東堂は新開を指差し責める。
「襲……ははっ。違いねぇ」
「笑い事ではないぞ隼人!」
新開は苦笑いをし、興を削がれたように手を振って部室から出て行った。
「大丈夫か、荒北」
東堂は荒北に向き直り尋ねた。
「っぜ!オメーお節介過ぎんだよ!親戚のオバチャンか!」
「ぬおっ!仲裁に入ってやったというのにその言い様!」
こうは言ったが、東堂が来てくれて荒北は正直助かったと思っていた。
新開は限界のようだ。
自分も早く決断してやらないと。
しかし……。
「まったくおまえ達はいつも仲が良いのか悪いのかわからんな」
東堂は倒れたローラー台を起こしながら言う。
「……いつだって仲良しこよしだヨ俺達は」
むしろ仲が良過ぎて今こんなことになっているのだ。
だが、あまり拗らせると今日のように周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。
「荒北よ」
東堂は戸締りを確認しながら言った。
「ンだよ」
荒北も帰り支度をしながら答えた。
「おまえはすばしっこいが、新開はああ見えてパワー型だ」
「何が言いてぇんだ」
「捕まったら、おまえの負けだぞ」
東堂はビシッと荒北を指差して言った。
「ハッ!オレがそんな簡単に捕まるかよ!」
「忠告はしたからな!」
「へいへい」
荒北は手を振って寮へ帰って行った。
その翌日。
部活中、湖周回コースを走っている荒北は新開を引いていた。
「新開ィ」
後ろを振り向いて荒北は話し掛ける。
「なに?」
新開は答える。
荒北は声を張り上げて言った。
「なに?じゃねーよ!今日のメニューにオメーを引く予定なんかねぇんだけどォ?なんで後ろに貼り付いてンだよ!」
「靖友!オレはな!」
「ンだよ!」
「もうおめさんのケツしか目に入「でけぇヨ!声がァ!!」
ダメだコイツ。
早くなんとかしねぇと。
荒北は新開を振り切るために良いことを思い付いた。
「新開、勝負しようぜ」
「勝負?」
「今から10キロ以内にオレに追い付くことが出来たら……」
「出来たら?」
「オレはオメーのモンだ」
「!」
新開は分厚い唇をベロリと舐めて答えた。
「乗った!!」
「ヨシャ!じゃあスタートだ!」
荒北はアタックをかけた。
新開はすぐに続こうとしたが、荒北は急に右折してコースから外れ、全速力で向かって行ったのは……。
「山……!」
新開は足が止まってしまった。