告られて (短編3頁)





「好きだ、靖友。俺の恋人になってくれ」

 

 

校舎の屋上に呼び出され、荒北は今まさに新開から愛の告白を受けているところだ。

 

 

「……」

 

 

荒北は暫く新開を睨み付けるように見つめ、その後目を逸らしてこう答えた。

 

 

「あっそ」

 

 

 

ツカツカと歩み寄り荒北の左腕をガシッと掴んで新開は声を荒らげた。

 

「あっそは無いだろこういう時普通!」

「じゃあどう答えりゃいいんだヨ!」

 

荒北も声を張り上げて応戦する。

 

「yesって言えばいいんだよyesって!」

「一択強制かよ!」

「即否定しなかった時点でyes確定だろ!」

「テメーに都合のいいように解釈してんじゃねーよ!」

 

荒北は新開の手を振りほどいて間合いを取った。

 

新開は息を整えながら荒北を恨めしそうに見つめる。

 

「……なんなんだこのムードもへったくれも無い展開は。想定外だよ」

「悪りぃな。野郎同士なんでね」

 

「靖友……。おめさんも俺と同じ気持ちだと思ってたんだけど……」

「……」

 

荒北は黙り込んでしまった。

 

「そこは否定しないんだ。じゃあお願いだから素直にyesって言ってくれないかな。頼むよ」

「……」

 

「靖友。俺、告る決心つけるのに三日三晩悩んだんだぜ」

「……」

 

……知ってんよ。

 

荒北はそう言いかけたが止め、かわりにこう言った。

 

「……悪りぃ新開。返事はもうちょっと待ってくんねぇかな」

 

新開はやっと口を開いてくれたことにホッとしながらも不安気に尋ねた。

 

「もうちょっとって、どのぐらい?」

「……1ヶ月ぐらい」

「長っ!待てないよそんなに」

「じゃあ……2、3日」

 

 

「……わかった。待ってる」

 

新開は不満そうだったが、そう言って屋上から去って行った。

 

 

 

 

荒北は新開の降りて行った階段室を見つめながら考えていた。

 

 

新開が数ヶ月前から自分を意識し始めたことを荒北は敏感に察知していた。

新開のフェロモンが自分に対してのみ発せられていて、それが日に日に強くなっていく。

 

それが判っていてこちらも意識しないわけがない。

荒北も、新開に惚れていた。

 

ここ数日、放出されるフェロモンが特に大量だったため、荒北は近々「来るな」と予測していた。

 

果たして告白され、本心は小躍りしたいぐらい嬉しかったのだ。

新開がそんなにyesと言って欲しいのなら何度でも何十回でも言ってやる。

そう思っている。

 

それなのに、素直にyesと言えなかったのは荒北にまだ迷いがあるからだ。

 

同性同士という最大の障害。

これがネックになるのは当然だ。

 

しかし、新開のことを好きなのも事実。

何も考えず新開を受け入れたいのが本心。

 

それでも一歩踏み出せないのは、何かひとつ「決め手」が欲しかったからだ。

 

障害やらめんどくさいことを全て忘れ、「ああもう何もかもどうでもいいからコイツの胸に飛び込みたい」と決心出来るような決め手が欲しいのだ。

 

周りの景色が真っ白になって、目の前の新開の姿しか目に入らない。

そんな気持ちになれれば、躊躇無く新開を受け入れることが出来るのに。

荒北はそう思っていた。

 

 

そしておもむろにフェンスを蹴り飛ばして吐き捨てるように怒鳴った。

 

「って、乙女か!オレぁ!」

 

 

荒北は頭をボリボリ掻きながら階段をドスドスと降りて行った。

 








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