落とし物 (短編1頁)
「ニャア」
部室の前で、黒猫が何かをつついていた。
「ム」
そこへ通りかかった福富。
黒猫の手からそれを取り上げる。
「……」
その日のミーティングが終わった後、部員達の前で福富が言った。
「先程、部室の前に落とし物があった」
ざわっ。
「DVDだ」
ざわざわ!
「パッケージのタイトルは『ドキッ!男同士の濡れ濡れ「福ちゃんストーップ!!」
ざわざわざわざわ!!
慌てて荒北が遮ったが、内容はほぼ全員に伝わってしまったようだ。
「オレはまだ暫くここにいる。持ち主は取りに来るように。では解散」
部員達は互いに顔を見合せながら、ゾロゾロと部室を出て行った。
「……」
「……」
「……」
部室に居残る新開、東堂、荒北、の3年生組。
「……なぜ残る。帰っていいぞ」
3人に向かって福富が不思議そうに問う。
「いやぁ、誰が取りに来るのかなって」
「副部長としては事の顛末を見届けねばならん」
「こんないかがわしいモン神聖な部室に落としたヤツぁ殴ってやらねェと」
長机の上に置かれたDVDを凝視しながら答える3人。
「さすがに名乗り出ないんじゃないか?モノがモノだし」
パッケージを舐めるように眺めながら言う新開。
「パッケージと中身が同じかどうかは疑問だがな」
真面目な顔でDVDに手を伸ばす東堂。
「そうだな。中身の確認は重要だな」
東堂に同意する荒北。
「興味あるのかい?靖友」
「オ、オレぁ上級生として当然のシメシをだなァ……」
「もし持ち主が現れなかったらどうする?フク」
「ム……捨てるしかあるまい」
「捨てるぐらいなら欲しいなオレ!」
「オレにくれ!オレが処分してやんよ!責任持って!」
「とりあえず視聴してみるか……」
東堂が部室内のデッキにセットしようとする。
「待て!」
それを荒北が止めた。
「なぜ止めるのだ荒北」
「そうだよ。一緒に観ようぜ靖友」
荒北は焦る。
「オメーら!まさかここで観る気か?部室だぞ!しかも福ちゃんがいるんだぞ!」
「オレは別に構わないが」
「ふ、福ちゃん!わかってンのか?トラウマもんだぜ?人生変わっちまうぜ?」
「そうなのか?」
「ダメだ全然わかってねェ!福ちゃんにはとても観せられねェ!」
荒北は東堂の手からDVDを取り上げようとする。
「貴様はフクの保護者か!フクだってもう大人なのだ!分別のつく年齢だ!」
「ダメだ!許さねェ!」
新開が後ろから荒北を羽交い締めにする。
「オレが掴まえてるうちに尽八!早く!」
「離せ新開ィ!ヤメロ東堂ォ!」
東堂は素早くデッキにセットし、再生ボタンを押した。
「ヨセーー!福ちゃん!見るな!目を閉じろー!!」
バーーン!
その時、部室のドアが勢い良く開いた。
「落とし物届いてるって聞いてー!そのDVDオレのですー!」
入って来たのは真波だった。
「いやー。探してたんですよーそれ」
笑顔で頭を掻きながらテレビ画面を指差す。
「ニャーニャー」
画面には、黒猫が毬と戯れている映像が流れていた。
「こ、これは……?」
「猫の動画を集めたモノです。可愛いでしょー」
「でもこのパッケージは……」
「あー、その中身はオレんちにあります。学校に持って来るわけないじゃないですかー。やだなー先輩方」
「……」
真波はDVDをデッキからパッケージに戻し、部室を出て行く。
その後ろ姿を3年生4人は放心状態で眺めていた。
ドアを閉める直前、真波は振り向いて言った。
「本当の中身、すごいですよー。受け役の男優が荒北さんにそっくりなんです!」
パタン。
「……」
「……」
「……」
「……」
「貸してくれ真波!オレにも観せてくれそれー!」
「なンだその内容!フザケンナ捨てやがれー!」
バタバタと真波を追い掛けて行く新開と荒北。
「受け役とはなんだ?」
「……やはり観ない方がいいかもなフクは」
おしまい
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