お静かに (短編1頁)
チャリ部遠征の帰り。
バスの中ではみんな疲れて眠っている。
荒「くかー」
荒北もまた、口半開きで腕組みをしたまま、窓に頭を凭れさせぐっすり眠っていた。
新「……」
そこへ、そーっと現れた新開。
荒北の隣の座席に静かに座る。
新「……」
荒北の寝顔に見入る。
ドキドキ……。
そっと顔を近付ける。
黒「新開さん」
新「ギクぅッ!!」
飛び跳ねる新開。
声のした方を見ると、前の座席と座席の間から黒田の目がギョロリと覗いていた。
新「な、何してんだ黒田」
黒「何してんだじゃないスよ。こっから荒北さんの寝顔を眺めながら、悪い虫が付かないよう見張ってんス」
新「……」
黒「……」
二人はしばらく睨み合い、やがて立ち上がった。
新「悪い虫って誰のことだ!」
黒「アンタに決まってんだろ!悪い虫じゃなきゃ悪い鬼か!それで満足か!」
真「シーッ!二人共、そんな怒鳴り合ったら荒北さん起きちゃいますよ」
諌める真波が後ろの座席から手を伸ばし、荒北の腕に触っていた。
新「どさくさに紛れて触ってんじゃねぇ真波」
真波の手を払い退ける。
黒「全く油断も隙もねぇな」
パシャッ!
シャッター音が鳴った。
3人が振り返ると、泉田が写メを撮っていた。
泉「無防備な荒北さんの寝顔……フフフ。これは高く売れる」
ニヤリと笑う泉田。
黒「塔一郎!てめぇなんてことを!」
新「いくらだ泉田!」
真「オレも買います!」
黒「荒北さんの写真を小遣い稼ぎに使うつもりか!」
泉「どうせオマエも買うんだろユキ」
黒「当然だ!」
その時、バスの前方に鹿が飛び出した。
運転手「おおっと」
キキキーーーッ!!
急ブレーキを踏む運転手。
乗客全員が前につんのめる。
泉「あっ!」
その弾みで泉田のスマホが手を離れ宙を舞った。
カコン!
スシャーーッ!
車内の通路に落下し、前の方に滑って行くスマホ。
葦「ん……何事?」
眠い目をこすりながら座席を立ち上がった葦木場が、そのスマホを踏んだ。
バキャン!!
泉「アッブーーーッッ!!」
新「!」
真「!」
黒「!」
足元を見て驚く葦木場。
葦「えっ、なに?あっ!誰の?」
泉「ボクの小遣いがー!」
葦「塔ちゃんの?ご、ごめん!ああ、完全にひしゃげてる」
新「写真は?靖友の無防備な寝顔は?」
真「オレのオカズは?」
黒「引き延ばして抱き枕にプリントする完璧な計画は?」
東「うるさいぞ貴様ら!急ブレーキ前からずっと我慢していたが!ここで降りろ!!」
何も無い暗い草原にバスから降ろされる新開、黒田、真波、泉田、葦木場。
5人「……」
ブロロロ~。
走り去るバス。
荒「くかー」
騒動にも全く気付かず、荒北は熟睡していた ──。
おしまい
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