ラブレター (中編5頁)
校舎の屋上で手紙を開く。
── いつだって僕は君の力になりたい。僕の全てを使って ──
昨日の手紙は感謝の気持ちを伝えるものだった。
しかし今日は、礼がしたいという内容だ。
荒「礼が欲しくてやってンじゃねェんだよ」
荒北は読みながらそう呟いた。
── だけど僕は臆病で頼りなくて。満足なことは出来そうにない ──
気弱で不器用な面が文章から読み取れる。
しかし、押し付けがましくなく真面目で誠実な性格だということは伝わってくる。
── せめて君がいつも笑顔でいられるよう、そばで照らし続けることが出来れば ──
控えめで遠慮がち。
好意を寄せてくれていることが解る。
荒北はこの手紙の主に好感を持った。
翌日も、その翌日も、チョコレート色の手紙は靴箱に入っていた。
朝だけでなく昼や夕方の時もあった。
── 君と過ごす時間がとても心地好くて、君の笑顔を見ているだけで胸が温かくなって ──
荒「……」
── ちょっと手を伸ばせば触れることが出来るのに。君はこんなにも近くにいるのに ──
最早完全にラブレターとなっていた。
毎日手紙で気持ちを表現することにより、想いがどんどん募っていることが解る。
荒北の身近な人物だということを隠そうともしていない。
荒北は何度も読み返した。
実は荒北には2通目ぐらいから手紙の主が誰なのか判っていた。
しかしこの彼がいつ正体を明かすつもりなのか。
どう決着をつけるつもりなのか。
荒北とどうなりたいのか。
彼本人の気持ちがまだ確定されていない。
荒北は、それをじっと待つつもりでいた。
それからも毎日手紙は続いた。
寮の自室でゆっくり開封する。
── 君は僕のたった一人のかけがえのない存在。だけど僕は君のそれにはなれない ──
荒「ン?」
今までと違う流れを感じ取る。
諦める方向に決心したのだろうか。
荒北は手紙を読み進めた。
── なぜならあの時僕は君を掴むことが出来なかったから ──
荒「あの時?」
── 目の前で落ちていく君の腕を掴むことが出来ず、僕の手は空を切った ──
荒「……!」
── 試合に負けた事よりも、君を掴めなかった事がいまだに悔やまれて、悲しくて、情けなくて ──
── 君は何度も何度も僕を引き上げてくれたのに、僕にはそれが出来なかった ──
荒「アイツ……!」
荒北は椅子から立ち上がり、自室を飛び出して行った。