ラブレター (中編5頁)
荒「……」
その日の部活中、荒北はずっとどんよりしていた。
今も項垂れてベンチに座っている。
その様子を心配そうに眺める東堂と新開。
東「今朝の手紙はさすがに荒北に同情する」
新「完全な逆恨みだからな。彼氏とも面識無いみたいだし。靖友には何の落ち度もない」
二人は荒北に近付き、元気づけるため肩をポンと叩いた。
東「気にするな荒北。不気味だろうが、あの手紙はもう燃やした。大丈夫だ」
荒「お祓いもして。供養して。お願いィ……」
力無く顔を上げ、弱々しく懇願する。
新「あの彼氏にはオレがちゃんとヤキ入れといたからな」
荒「なんか違う気がするけど考える気力今は無いのォ……」
またしょんぼりと項垂れてしまう。
新「可哀想に……。あの靖友がこんなにダメージを受けるなんて」
東「なんとか元気を取り戻してくれんと困るな」
二人は顔を見合せた。
~翌日~
靴箱を開けて荒北はギョッとした。
また手紙が入っていたのだ。
東堂に取ってもらおうと周りを見渡したが、今朝に限って見当たらない。
新開も近くに居ない。
仕方がないのでそーっと手を伸ばす。
今までの手紙と違い、靴の間に挟んであるためハラリと落ちることは無かった。
荒北はサッとポケットに仕舞い、そのままトイレへ駆け込んだ。
個室に入って鍵を掛ける。
震える手でポケットから手紙を取り出した。
もしまた呪いの言葉が書いてあるようなら、すぐにビリビリに破いて便器に流そうと思っていた。
しかし、どうやら呪いの手紙ではないようだ。
荒北はホッとした。
その手紙は、秋らしい落ち着いたセンスあるチョコレート色のレターセットで、差出人の名前は書いてなかった。
しかし文章で男子からだということは判った。
自筆ではなくプリントアウトされているため筆跡は判らない。
ラブレターなのか?と警戒したが、どうもそうではないらしい。
── 君は意識していないだろうけど、君のおかげで僕は今の自分を取り戻すことが出来た ──
漠然としていて詳細が書かれていないが、どうも以前荒北に何か助けてもらったことに対しての感謝を伝える内容のようだ。
── 前が見えなくなっていた僕に手を差し伸べてくれたあの日のことを、僕は決して忘れない ──
荒北はよく、イジメの場面に遭遇すると本能的に助けに入ったりしているため、その内の誰かがお礼の手紙を寄越したのかもしれない。
手紙をポケットに戻し、トイレから出る。
誰なのか判らないが、この手紙のおかげで昨日からどんよりしていた気分がかなり晴れ、元気が出てきた。
その日の部活。
荒北が鼻歌を歌いながら自転車を整備していると、新開がニコニコして近付いてきた。
新「ちょっと元気出たみたいだな靖友」
荒「ン。やっぱ日頃の行いっての?一日一善っての?正直者は救われるっての?」
新「ははっ。何言ってんのかわかんないよ」
笑う新開。
荒北が明るくなってくれてホッとしている。
東「荒北ーーーっ!」
そこへ東堂が駆け寄って来た。
東「ゆうべ寝ずに考え抜いた渾身のジョークを聞けーーっ!」
荒「失せろ!」
東「ならば古典の小噺を何をする隼人!離せ!離さんか!」
新「靖友はもう大丈夫だよ」
東「なぬ!ではオレのジョークは!」
新「寿一に聞いてもらおうぜ」
新開は東堂を引き摺って行った。
~翌日~
荒「エ……」
靴箱を開けて驚く荒北。
昨日と同じ、チョコレート色の手紙が入っていた。