B線からのSOS 【連載中】★オススメ
新開を風呂に入らせ、その間に荒北はバルコニーのテーブルに夕食を並べる。
ボンゴレパスタにトリッパにオリーブサラダ。
数本のグリッシーニ。
それから白ワイン。
イタリアの家庭料理だ。
「うわぁ!旨そう!これ全部靖友が?」
風呂から上がってTシャツ短パン姿の新開が歓喜する。
「明日休みだからニンニク料理大丈夫だろ?」
「休みじゃなくてもいつでもニンニクOK!」
「……ちったァその辺考えろヨ」
今まで誰もコイツの世話をしてこなかったのか……?
荒北は呆れた。
テーブルのキャンドルに火をつける。
今夜は風も無く、涼しい。
「過ごしやすい気温だナ」
「これ何?なんの煮込み料理?」
「……」
興味津々にトリッパの匂いを嗅ぐ新開。
風情よりも食い気の方が勝っているようだ。
「牛の胃袋のトマト煮込みだ。イタリアではポピュラーな料理だが、なかなか日本ではメニューに……」
「旨めぇ!」
「乾杯する前に食ってンじゃねェ!」
荒北はテーブルを叩いて怒るが、心から美味しそうにモグモグしている新開を見ると、もうどうでも良くなってきた。
「これは?チュロス?」
グリッシーニを手にする新開。
「なんでだ。クラッカーのようなモンだと思えばいい。少しずつ折って……」
「ん?」
荒北の説明を聞く前に、既に細かく砕いてトリッパに混ぜていた。
「……あァ。それでいい」
なんなのだろう。
この感覚。
天真爛漫な新開にノンストップでツッコミを入れ続け、疲れるはずなのだがなぜかそれが心地好い。
世話を焼くことに快感を覚える。
「……漫才コンビの相方、みてェな感覚……?」
「なにが?オレ達?あっはっは!面白れぇなそのボケ!」
「ボケはオメーの方なんだヨ!!」
食事を終え片付けた後、新開の手土産のウォッカをベプシで割ってバルコニーへ持ち出す。
対岸の繁華街の灯りを眺めながら二人で手すりにもたれる。
カランカラン。
グラスの中の氷を揺らし、新開が言った。
「靖友……。オレのこと忘れないでくれよ」
「ハ?」
「運命の相手が見付かってもさ、デートばっかしてないでオレとも遊んでくれな」
「新開……」
「オレ、靖友と出逢えて良かったと思ってる」
「……」
コイツはなぜこういうことを照れずに言えるのだろう。
荒北は呆れを通り越して最早尊敬してしまう。
「靖友の運命の相手が現れたら……オレきっとおめさんを盗られた、って思っちまいそうだ」
「エ……?」
「邪魔しちまうかもしれない」
「オイオイ。そんなことしたらB線のオレを救えなくなっちまうダロ」
「……そうだな。ごめん」
新開は悲しそうに項垂れた。
「オレを盗られたって別にいいじゃねェか。オメーにはまだ親友がいるんだから」
荒北はちょっと拗ねたように言った。
新開の親友の存在が心のどこかでやはり気になっているのだ。
新開はそれを聞いて、顔を上げた。
「靖友と寿一は違う。……違うんだ。何がどう違うかわかんないんだけど……違うんだ」
「……」
「もし寿一に彼女が出来たとしても盗られたなんて思わねぇ。祝福するよ。けど靖友は……なんでだろう。何が違うんだろう」
新開は考え込んでしまった。
「……酔ってんだよオマエ。もう遅いから寝ようぜ」
荒北は新開を部屋の中へ促した。
「ベッドはひとつしかねェからァ。オメーはこのソファな」
枕と毛布をリビングへ運んでくる荒北。
「オレ、ベッドがいい」
「ハァ?我が儘言うンじゃねェ。何様だテメェ」
「靖友と一緒に寝る」
「ッざけンな。狭めェよ」
「狭くてもいい」
「オイ!」
新開はスタスタと勝手に寝室へ向かった。
(つづく)
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