B線からのSOS 【連載中】★オススメ
それから二人は頻繁に会い、呑みに行くようになった。
「どう?最近は」
新開が尋ねる。
「サッパリだ。歌聴いてくれる人や常連はいるが、どれもビビッと来ねェ」
荒北は溜め息をつく。
「オレも全然。うちの会社、結構女子社員多いんだけど全くね。取引先関連もダメダメ」
新開も同様に溜め息をつく。
「やり方が間違ってンのかなァ」
「路上ライブじゃなくてネット配信にしたら?」
「いや、直接顔合わせて出逢わねェと意味がねェとオレは思ってる。それに……」
「それに?」
「いつも家に引きこもってっからヨ。こうやって外に出る癖を付けねェとな。そういう意味ではB線のオレに感謝してる」
「おめさんって……発想が前向きだよな。オレも見習わねぇと」
「よせヨ」
照れる荒北。
新開は天然なのか気持ちを素直に表に出すので、そのたびに荒北は赤面してしまう。
「なぁ、靖友」
「ン?」
「セックスしたことある?」
「ブーーーーッ!!」
荒北はビールを思いっ切り吹いた。
「ンなッ!な、ナニ?」
慌てておしぼりでカウンターを拭く。
「オレ、無いんだ」
ゴンッ!!
カウンターにオデコをぶつける荒北。
「なぁ、どんな感じだった?」
「ちょ!待て!」
顔を寄せて来る新開にたじろぐ。
「もちろん知識としてはあるけどさ。なぁ、教えてくれよ」
「知らねーヨ!」
「こんなこと聞けるのおめさんだけなんだ。なぁ」
「だから知らねーンだって!」
「えっ?」
「……」
荒北は真っ赤になって目を逸らしている。
「え、まさか、おめさんも……?」
「悪かったナ!」
新開は笑顔になって荒北の肩に腕を回した。
「なぁんだ仲間だったのかぁ!」
「仲間とか言うんじゃねェ!」
情けなくて涙が出そうになる。
「けどマジか?オメー、モテるだろ?かなりのイケメンだし」
「顔なんて親から貰ったもので、オレの実力じゃねぇもん。……確かに女性に声掛けられることは多いけどさ、付き合いたいって思ったことは一度もないんだ」
「ヘェ。勿体ねェ話だなァ。オメーみてェないいオトコが売れ残ってるなんてヨ」
「うわぁ!靖友にいいオトコなんて言ってもらえた!すげー嬉しい!女性に言われるよりずっと嬉しい!」
「……」
子供のようにはしゃぐ新開。
荒北はどうも調子が狂う。
新開の素直さ、正直さ、純粋さ、そして自分を無条件に信頼してくれている。
こんな人間は今まで周りにいなかった。
「オレ、不安なんだよね」
「なにがァ?」
「運命の人相手にちゃんと勃「ヤメロこんなとこで!」
慌てて手を伸ばし新開の口を塞ぐ荒北。
「だって今までどんな美女目の前にしても何とも思わなかったんだぜ。これじゃあたとえ運命の人と出逢っても結ばれねぇかもって」
「まだ出逢ってもいねェのに先のことまで考え過ぎだ。大丈夫だって。きっと」
「そうかなぁ……」
「そうだ新開!こう考えろ!」
荒北は提案する。
「アソコが反応した相手が運命の人だ!ナ?判りやすいダロ?」
「……そうか!そうだな!さすが靖友だ!」
笑顔になる新開。
これが的確なアドバイスだったのかどうか荒北自身も不安になる。
自分だって経験無いのにどうなるかわからない。
「なぁ靖友」
「ン?」
「オレ達って……秘密の関係だよな」
「ブッ!」
荒北はまたビールを吹きそうになった。
「だってさ、お互いホントは仲良くしちゃいけない職業だしさ、誰にも言えない同じ夢見てるしさ。あと……DT」
「最後のは余計だ」
「同じ秘密をいくつも共有してるってさ、なんかドキドキする」
「しねェよ」
「だからさ、明日の週末、靖友んち泊まりに行っていい?」
「なにが“だからさ”だ。今の流れでどーしてそうなる」
「おめさんのデイトレ機器が見たいんだよ。ずっと気になっててさ」
「お互い仲良くしちゃいけねェ職業だって今言ったばかりだろ。うちに出入りしてるとこ見られたらどーすんだ」
「変装して行くからさ。ヒュウ!スリルあるぅ!パパラッチに狙われてる芸能人カップルみてぇ!」
「……バカだろオマエ」
もう来る気満々な新開を断る理由も思い付かず、翌日の夜に出逢橋で二人は待ち合わせた。