B線からのSOS 【連載中】★オススメ
荒北はグラスの水滴を指先につけ、カウンターテーブルに縦線を2本、それに交差させるように横線を1本描いた。
「いいか。縦が世界線。そして横が時間だ」
「うん」
「今日は2024年5月15日。だから他の世界線も全て同じ日ナ」
「OK」
「今オレ逹がいるこの世界線を、A線とする。そして夢の世界が、隣のB線だ」
「B線って、そういう意味だったのか」
「こちらのA線と並行してB線は確実に存在している。つまり、夢の中の出来事はB線の5年前に起こった事実だってことだ」
「……なんか、すげぇな。ワクワクしてきたよ」
鼓動が速まる新開。
「B線のオレは5年前に大失恋を経験した。そして5年経過した今でもそれを引き摺って苦しんでいるんだ」
「うんうん」
「その苦しい想いがあまりにも強過ぎて、ついに思念が世界線を飛び越えた」
「ほう!」
身を乗り出す新開。
「その思念を、A線のオレがキャッチしたってワケだ」
「それが、あの夢ってわけだな!」
新開は拳をギュッと握って思わず叫んだ。
「C線のオレは既に別の誰かと結婚してるかもしれねェ。D線のオレはまた別の彼女がいるかもしれねェ。そういうリア充な世界線ではキャッチ出来ねェ。キャッチ出来たのは、ぼっちで暇してる世界線のオレだ。つまりこのA線のオレ」
「ぼっちで暇してる……」
「なぜA線のオレがキャッチ出来たかってェと、まだ運命の相手が確定してねェからだ」
「なるほど」
荒北はここでカクテルを一口呑み、ひと呼吸置いてから言った。
「B線のオレは、A線のオレに何を伝えたいのか。答は、ひとつだ」
「……うん」
新開ももう解っているようで、頷いた。
「B線の運命の相手と、A線で出逢って結ばれてほしい」
「……だな」
「それによってB線のオレは背中を押され、別れたままの運命の相手に再び会いに行く勇気を得られるんだ」
「うん」
「もし成功すれば、きっともうあの夢を見ることは無い」
「なるほど!」
「オレは、B線のオレを救ってやりたい」
「ああ!」
新開は両拳をグッと力をこめて握る。
「……って言うとカッコイイけどヨ、本音はオレも興味あンだよナ。自分の運命の相手ってのにサ。へへッ」
荒北は笑って言った。
「これなら、目覚めると相手の姿を忘れてるってェのも説明がつくんだ。相手の顔が判っていたら運命じゃねェ。ただの作業だ。ちゃんと前情報無しで出逢ってこそ運命の相手なんだ」
「確かにそうだな!」
「ンで、オレは夢のことを毎晩あの橋の上で歌うことにしたんだ。この街で一番の繁華街だからな。運命の相手ってのがオレの歌に反応してくれることを期待して」
「靖友……!」
ガバッ!
新開は荒北に抱き付いた。
「ウワッ!」
驚く荒北。
「ありがとう!ありがとう靖友!夢の謎を解いてくれて!ずっとずっと誰にも言えずに悩んでたんだオレ!」
「……」
きつく抱き締められて、思わずドギマギする荒北。
「お、オイオイ。そんなにくっついたら惚れちまうゼ?」
「ははっ」
新開は笑って、身体を離した。
「けど……。オレも嬉しいヨ。こんな漫画みてェな解説を理解してもらえてヨ」
照れくさそうに笑う荒北に、新開は興奮気味に力説する。
「いや、オレ小説読むの趣味でさ。一番好きなのは推理小説なんだけど、こういう現代SFも大好物なんだ」
「確かにSFだよナ」
「オレの前世論なんかより、はるかに現実的で科学的考察だよ!感動したよオレ!」
「そォ?……へへッ」
頬を赤く染めて首の後ろを掻く荒北。
「オレも!オレも頑張って運命の相手を見つけ出すよ!オレもB線のオレを救う!」
「じゃあ、どっちが早く運命の相手と出逢えるか競争だナ」
「ああ!靖友!またオレとこうして会ってくれるかい?」
「モチロンだ新開。また情報交換しようぜ」
「嬉しいよ。おめさんみたいな友達が出来て」
新開は右手を差し出して握手を求めた。
「トモダチ……!」
普段デイトレで家に引きこもってばかりの荒北は、たいした人付き合いもしてこなかった。
同い年の青年に友達と呼んでもらえ、照れくさくてたまらない。
硬くなりながら、おずおずと右手を出した。
グッ!
「!!」
新開は荒北の右手を両手で握った。
満面の笑みを荒北に向ける。
荒北にはその笑顔がたまらなく眩しく見えた──。