B線からのSOS 【連載中】★オススメ
「B線……からの、SOS?」
「そうだ。それなら全て説明がつく」
キョトンとする新開。
「えっと、ごめん。B線て、なに?」
荒北は足を組み換え、全身を新開へ向けてから言った。
「要は、パラレルワールドだ」
「パラレルワールド?」
「ソ。知ってるだろ?その単語」
「知ってることは知ってるけど……つまりどういうこと?」
解説を待つ新開。
荒北はカクテルをグイッと呑み干してから説明を始めた。
「分かれ道がある。右へ進むと何事もなく通過した。しかし左へ進むと車にはねられた」
「うん」
「右が正解かと思いきや、左に進んだ自分は担ぎ込まれた病院で可愛いナースと出逢い、結婚して幸せな人生を送る。かたや右へ進んだ自分はぼっちのまま一生を終える」
「……」
「これは、どっちが正解かって話じゃねェ。どっちにもそれぞれの人生がある、ってェ話だ」
「うん」
「両方体験することは不可能だ。だが、別の道を進んだ自分の人生はきっとどこかにある筈だ、というのがパラレルワールドの概念だ」
「ふむふむ」
「例えば、諦めずにプロ野球選手になったオレの世界もどこかにあるかもしれねェ。しかし中学ぐらいで肘を壊し、傷心のまま野球部の無い高校に進学した世界もどこかにあるかもしれねェ」
「なるほど」
荒北は新開を指差して言う。
「オメーも、自転車に乗れなくなった後、誰かのおかげで立ち直って、今頃プロのレーサーになっている世界がどこかにあるかもしれねェ」
「……そんな世界が……!」
そんなこと考えたこともなかった。
もちろん、本当は大好きな自転車を辞めたくはなかった。
続けていたらきっとプロを目指していただろう。
「だが、諦めた人生だって悪くはねェ。諦めたおかげで出逢った人、諦めたおかげで手に入れた幸せも、必ずあるンだ」
「……そうか……。なんか……救われるよ。その考え方」
新開は涙が出てきた。
「人生の分岐点のたびに世界は分裂する。この世には無数の世界線が存在するンだ」
「うん」
「そんなバカな、と否定するのは簡単だ。だが、そんな世界は無い、と証明することもまた不可能なんだ」
「解るよ。だって、この宇宙には太陽系みたいなのが他にもあるかもしれないんだから。まだ“無い”とは証明されてないんだから」
「そーゆーコト。可能性は無限だ」
新開に理解してもらえて、荒北はホッとした。
二人は更にカクテルを追加した。
パラレルワールドの概念を踏まえた上で、いよいよ夢の謎を解く時が来たのだ。