B線からのSOS 【連載中】★オススメ
「で……オメーの夢とオレの歌が酷似してるって件なンだが」
「ちょっと待ってくれ靖友」
話の核に入る前に気を落ち着かせたくて、新開は口を挟んだ。
「もう1杯どう?あと、ピザでも食わない?」
「ン?……じゃあそうしようか。ア、奢ってくれンのは1杯分でいいかンな。あとはちゃんと自分で払う」
「そんなこと……オレが相談に乗ってもらってるんだ。当然全部オレ持ちだよ」
「いや、金のことはキッチリしようぜ。これでもお互い金融関連ダロ」
支払いをうやむやにしない姿勢に、信頼出来る人間だと新開は益々荒北に好感を持った。
追加のカクテルとピザが運ばれて来る。
「実ァな、新開」
ピザをひと切れかじりながら荒北は言った。
「オレも……見るんだ。その夢」
「な!……んだって……?」
愕然とする新開。
「オレの場合はオメーと逆だ。突き放して逃げる方だ。あの歌で言うと2番の歌詞の方な」
「……」
「同様に、オレも目覚めると相手のことを忘れてる。ただ、想いと正反対のことをして逃げてしまった後悔の念だけが強烈に残ってる。……オレも起きた時、涙でぐしゃぐしゃだ」
「……じゃあ、あの歌は」
「自分の夢のことを歌ってんだヨ」
まさか……自分と同じ体験をしている人が他にもいたとは。
新開は思わずカクテルをイッキ呑みしてしまった。
荒北は続ける。
「オレも色々考えた。“こんなの間違ってる”ってセリフ。余程の障害が二人の間にあったってことだ」
「そうだな。例えば、身分違いとか?」
「可能性はある。現代でもカーストは存在するからナ」
二人で夢の推理が始まる。
新開は興奮してきた。
「普通に考えると、他に恋人がいたとか、親友の彼女だったとか」
「大いにあるよナ。だが、実際高校時代のオレに彼女なんか居なかったし、ダチの女に手ェ出すなんてゲスいことしねェよ」
「じゃあ、不倫とか」
「不倫?オイオイ。夢のオレ高校生だぜ」
「相手が女教師だったら有り得るだろ」
「チョット待て。オレ熟女趣味だってのか」
「熟女とは限らないさ。23、4歳だったとして5、6歳差だろ。充分有り得る話だ。それから5年後の今でも相手はまだ20代。全然アリだよ」
「ウーン。可能性はあるか」
一気に話が盛り上がる。
もしかしたら自分達以外にも、こういう夢に悩まされている人は世の中に何人も居るのかもしれない。
そう思えただけでも、新開の心はかなり軽くなった。
「いずれにせよ言えることは、高校当時の自分は幼な過ぎて、この障害を乗り越えるすべを持ち合わせていなかった。だから逃避するしかなかったんだ。しかし大人になった今なら、乗り越えるなり受け入れるなり、ハッピーエンドに出来る筈なんだ」
「それであの歌詞になるわけか」
「ソ」
荒北はグイッと身を乗り出し、ニヤリと笑って言った。
「そこで、オレが出した結論はこうだ。オレ以外にもそんな夢を見ている奴がいると今日知って、確信した」
新開は荒北の言葉を待ち、ゴクリと唾を飲む。
「これは“B線からのSOS”なんだ、ってナ」