B線からのSOS 【連載中】★オススメ
「もし社長賞が嘘だったら殴りに来よう」
地下鉄の駅に向かいながら福富が物騒な事を言う。
しかし新開はうわの空で、先程占い師に言われた事をずっと考えていた。
そして“出逢橋”という名の橋に差し掛かった時だった ──。
── 動かなかった私の足
あなたを追いかけたかった
叫び続けるあなたの名前
あなたを引きとめたかった ──
「……!!」
耳に飛び込んで来た歌に、新開は思わず足を止めた。
見ると、出逢橋の上で路上ライブをしているストリートミュージシャンだった。
新開と同い年ぐらいの黒髪の青年。
座ってギターを抱えバラードを歌っていた。
ギャラリーが数人、まばらに座り込み聴き入っている。
── 誰か助けて
結ばれなかったこの恋を
大人になった今なら
あなたを決して手離したりしない
繰り返し同じ夢を見て
今朝も涙で目が覚める ──
「この歌は……!」
まさにあの夢と同じ内容の歌詞に驚く新開。
立ち止まっている新開に福富が声を掛ける。
「素人の歌なんか聴いてどうする。行くぞ」
「あ……ああ」
気にはなったが、福富に言われその場を立ち去ろうとする新開。
その時、歌っている青年がチラリとこちらを見て目が合った。
ドキン!!
胸が跳ねる新開。
「新開!」
しかしもう一度福富に呼ばれ、新開は後ろ髪を引かれつつ地下鉄駅へ向かった。
翌日。
どうしても昨夜の歌が気になって仕方がない。
新開は仕事が終わるとすぐに出逢橋へ向かった。
「……居た!」
昨夜と同じ場所で、その青年は演奏していた。
新開はゆっくり近付き、ギャラリーに混じって聴き始める。
昨夜の歌をもう一度落ち着いて聴きたい。
そう思っていた時、その歌が始まった。
今日は2番の歌詞も聴くことが出来た。
── こんなの間違ってる
言いたかったのはそれじゃない
あなたを突き放した
したかったのはそれじゃない
誰か救って
結ばれなかったこの恋を
大人になった今なら
あなたから決して逃げたりしない
繰り返し同じ夢を見て
今朝も涙で目が覚める ──
「……!!」
驚いた。
2番の歌詞もまさにあの夢と同じだ。
なぜ。
なぜこの青年は自分の夢を知っているのだろう。
……いや、失恋物の歌など、どれもこんな感じの歌詞になるのかもしれない。
しかし……。
青年は持ち歌を数曲披露したが、どれもあの夢と同じ状況を歌ったものだった ──。
「今夜はもうおしまいだヨ」
「はっ!」
気が付くと、青年がギターを片付けながら自分に声を掛けていた。
周りを見渡すともうギャラリーは他におらず、自分だけが残っていた。
「オニーサン、昨夜も居たよね」
「!」
青年に言われびっくりする。
「お、覚えてたのかい?」
「オレの歌に足を止めてくれた人は全員覚えてる」
そう言って青年は最後に椅子を畳んだ。
「あっ、あの!」
新開は慌てて話し掛けた。
「チップを入れる箱はどこかな……」
新開は財布から千円札を取り出しながら青年の足元を探す。
青年はキョトンとして、すぐにフッと笑った。
「金が欲しくて歌ってんじゃねェ。趣味でやってんだ」
言葉遣いは悪いが、口調は穏やかだった。
「じゃ、じゃあ、CDとか作ってるんならそれを買いたいんだけど……」
「ンなもん作ってねーヨ」
青年は手を振って立ち去ろうとする。
新開は焦った。
「お、おめさんの歌に感動したんだ!対価を払いたいんだ!」
その申し出に驚く青年。
新開の顔をまじまじと見る。
真っ赤になっている新開。
青年は、やれやれといった感じでこう言った。
「じゃあ、1杯奢ってくれるゥ?」
新開はパアッと明るい笑顔になり、青年と一緒にbarへ向かった。