B線からのSOS (長編18頁)★オススメ
快晴 ──。
富士山の麓。
今日はツール・ド・フジの開催日。
国内のロードレース大会の中で最も大規模なイベントだ。
スタートの十数分前、選手達のテント。
「準備はいいか新開」
「ああ。寿一」
用意の整った福富がヘルメットを手に取り、一足先にテントを出る。
すると目の前に男が立っていて、足を止めた。
「!……荒……北?」
「やァ、福ちゃん。久しぶりィ」
荒北は片手を挙げ、ニカッと笑った。
「……高校卒業以来か?……5年ぶり……だな。ここで何を?」
「やだなァ。福ちゃんと新開を応援に来たに決まってンだろ」
「靖友の声……!?」
バタバタと足音がしてテントの入口がバサッと開き、新開が顔を出した。
「靖……!!」
「よォ、新開」
目玉をひんむいて驚いている新開。
「福ちゃん、悪りィ。新開と二人にしてくれるゥ?」
「ああ……。遅れるなよ、新開」
「OK……寿一」
新開は荒北を凝視したまま答える。
福富は先にスタート地点へ向かった。
荒北はテントに入り、新開と二人きりになる。
「靖友……。オレ、このレースが終わったら、おめさんに会いに行こう、って思ってたんだ……」
「そォだった?じゃオレの方が待ちきれなかったってことかァ」
首の後ろをポリポリ掻く荒北。
「靖友……。会いたかった……ずっとずっと、オレ、会いたかった……」
涙をポロポロ落とす新開。
荒北は歩み寄り、新開の頬に両手を添えた。
「バァカ。スタート前に泣いてンじゃねェよ。心拍乱れンだろ。オレの……ウサギチャン」
荒北はそう言って、新開の唇にチュッと軽くキスをした。
「!……靖友……」
『選手の皆さんはスタート地点に集まって下さい』
アナウンスが流れる。
「行けヨ。応援してっから」
「靖友……!待っててくれよ!絶対!帰らないでくれよ!レース終わったら、話したいこといっぱい……」
「わァかったわかった。ちゃんとゴール地点で待ってっからァ」
苦笑いする荒北。
新開はヘルメットを持ってテントを出る。
「新開」
「!」
呼び止められて荒北を振り向く新開。
「オレ、もう二度と、オメーから逃げねェから」
「……靖友……!!」
スタート地点。
キュッ!
ヘルメットの紐を硬く絞め、サングラスを掛ける新開。
「寿一」
「ム」
「絶対、優勝するぜ!」
「新開……」
「優勝トロフィーを、靖友にプレゼントするんだ」
「……高校以来だな、オマエが本気モード出すのは」
靖友……。
聞いてもらいたいことが沢山ある。
あれから5年間、オレの気持ちはずっと変わっていない。
再会出来た以上、もう二度とおめさんを手離さねぇ。
そうだな、まずは……ゆうべ見た変な夢の話から聞いてもらおうか……。
『スタート!!』
一斉に走り出すロードバイク群。
観客の声援の中を駆け抜けて行く。
「あァ、やっぱイイなァ、この雰囲気」
実況放送を聞くためにイヤホンを取り出す荒北。
新開……。
ゆうべ、ヘンテコな夢を見たんだ。
オレとオメーが二人並んでサ。
〈もう大丈夫だから、会いに行って来い〉
……って。
それでオレ、やっとオメーに会いに行く勇気が出たんだ。
この夢に背中押してもらえなかったら、オレ、一生決断出来なかった……。
しかし……夢の中のオレ達、変な組み合わせだったなァ。
オメーがビジネススーツ着ててヨ、オレはギターケース担いでンだぜ。
なんだありゃア。
なァ新開、信じてくれるか?
こんな夢 ──。
荒北はイヤホンを耳に装着し、ゴール地点へ向かった。
おしまい