B線からのSOS (長編18頁)★オススメ





会社を休み、新開はずっと寝込んでいた。



しかしウトウトと眠り始めたかと思うと、すぐにあの夢を見て起きてしまう。

 

そしてそのたびに枕を投げつけ、号泣する。

 

一日中その繰り返しで、もうヘトヘトだった。

 



「許してくれよ!オレにはもう無理なんだよ!運命の相手なんかもうどうでもいいんだ!オレは!靖友が好きなんだ!オレが欲しいのは靖友なんだ!靖友!靖友……!靖友ぉ……」

 


── 触んナ!! ──



最後に見た荒北の表情が忘れられない。

信じていた者に裏切られた、悲しみと絶望の顔だった。

あの勝ち気な荒北の目に涙が光っていた。

 

 

 

失恋とはこんなにも苦しいものなのかと思い知らされる。

忘れたくても忘れられない。

眠りたくてもあの夢で起こされる。

あのシーンが夢で何度もリプレイされるのだ。

悪夢とはまさにこのことだった。

 

 

 

「オレにどうしろってんだ!もう解放してくれ!他をあたってくれよ!」

 

 



B線の自分も、こんなふうに苦しんだのだろうか。

5年経った今でも忘れられず、思念が世界線を飛び越えるほど好きな相手とは、いったいどんな人物だったのだろうか。

 

 

だが、今なら解る。

自分もきっと、今後ずっと何年も、荒北を忘れられず苦しむのだろう。

 



「このままじゃオレの思念も世界線を飛び越えそうだ……。ははっ……。どの世界線でもオレはダメダメなんだな……情けねぇ……」

 



23年生きてきて初めて好きになった相手がまさか男とは。



「そりゃどんだけ女に寄られても反応するわけねぇよな……」

 




しかしどれだけ好きでも、荒北に同じことを強いるわけにはいかない。

荒北にはちゃんと相応しい運命の相手と出逢ってもらい、幸せになってもらいたい……。

 

 



 

もう荒北には会えない。

会うわけにはいかない。

たとえ傷付けたことを謝って許してもらえたとしても、もう今までのような付き合いは出来ない。

自分の気持ちに気付いてしまった以上……。

 

 

 

 

「靖友……。辛いよ。靖友ぉ……」

 

 

 

 

これ以上泣けないぐらい泣いたというのに、まだどんどん涙が溢れてくる。



こんなことなら、休まずに会社に行けば良かった。

まだ仕事していた方が気が紛れるだろう。

明日はちゃんと出勤しよう ──。

 

 

 

 

 



 

翌日。

 

 

「新開」 

福富に呼ばれ顔を上げる。



「昨日休んだそうだな」 

もう部署が違うので、あまり顔を合わせなくなった。



「……やあ寿一。元気?」 

弱々しく笑顔を向ける新開。




「ひどい顔だ」

「……顔のこと悪く言われたの初めてだよ」

ジョークも滑る。




「外へ食いに行こう」 


そう言われるまでいつの間にか昼休みになっていたことにも気が付かなかった。

 

 

 



デリでサンドイッチを買い、公園のベンチに座る。



「珍しいな」 

新開に食欲が無いことに対する発言だ。



「……うん」

「何があった」 

福富が心配して尋ねる。

 



自分も福富も今まで恋愛に縁が無かったせいで、あまり二人でそういう話題に触れたことが無い。 

どう説明したら良いのかわからない。



 

「……運命の相手を探さなきゃいけないのに、別の人を好きになっちゃったんだ……」

 

なんとか短く要約したが、余計難解になった気がする。



 

「運命の相手とは誰だ」

「わかんない。まだ出逢ってない」



「……」

「……」 

沈黙が流れる。

 



一生懸命解読しようと試みる福富。

やがて口を開いた。

 

 

「意味がよく解らんが……。その好きになってしまった人が運命の相手ではないのか?」

 

「……え?」

 

「なぜその人が運命の相手ではないと?」

 

「……だって……」

 

男だし、と言いかけて口をつぐむ。

 

 

 

 

「オマエが好きになった人だ。それならその人が運命の相手だろう」

 

 

「……!!!」

 

 

 

福富にそう言われ、今までの事が走馬灯のようにフラッシュバックした。

 

 

 

── こんなの……間違ってる! ──

 

── 余程の障害が二人の間にあったってことだ ──



── 結ばれなかった運命の相手と近々出逢うっショ ──

 

── オレも……見るんだ。その夢 ──



── 運命の相手ってのがオレの歌に反応してくれることを期待して ──

 

 

 


靖友が……?

 

靖友がオレの運命の相手……?

 

 

 




スック。 

新開は思わずベンチから立ち上がった。



自分を見上げる福富と顔を見合わせる。



福富は深く頷いた後、言った。





 

「結婚式には呼べ」
















13/19ページ
イイネ