B線からのSOS (長編18頁)★オススメ
翌日の夜。
荒北に会うため会社帰りに出逢橋に向かう新開。
「!!」
荒北が女性と話している。
新開は足を止めた。
遠目ではっきりとは判らないが、キャリアウーマン風の女性だ。
荒北の正面に屈み込み、なにやら熱心に話し掛けている。
── ズキン ──
新開は胸の奥がギュッと絞られるような痛みを覚えた。
荒北はちょっと引いているようだが、女性は積極的に押している感じだ。
── ドクンドクン ──
新開の鼓動が激しくなる。
ついに……。
ついにこの時がやってきてしまったのか。
荒北の運命の相手がついに……。
血の気が引いて血圧が下がってきた。
冷や汗が額を流れる。
その女性は手帳に何かを書き、1枚引きちぎって荒北の手に無理矢理握らせる。
そして手を振って去って行った。
新開はフラつく足で荒北に近付く。
「よォ。お疲れサン」
新開に気付いた荒北が声を掛ける。
「今の……女性は……?」
弱々しい声で尋ねる。
「ア?ああ今の?スカウトだよ。CD出さないかって。昨日断ったンだけどヨ、今日も来てシツコイっつーの」
荒北はそう説明するが、新開は上の空のようだ。
「今の女性が……運命の人?」
それを聞いて驚く荒北。
「オイ!ちゃんと見てたか?アレどう見ても40越えたオバハンだぜ?勘弁してくれヨ!」
「靖友……熟女好みだし……」
「言ってねーダロそんなこと一度もォ!はっ倒すぞ!」
ガシッ!
「!」
新開は荒北の両肩を掴んだ。
「靖友……!もうやめてくれ!」
「ハ?」
思い詰めた表情で懇願する新開。
「運命の相手探しなんてもうやめろ!今すぐやめろ!」
「新開……?」
「どうせ見付かりゃしねぇよ!無駄だ!」
「でも、オレはB線のオレを……」
「B線なんてもうどうでもいいじゃねーか!それよりオレと……!」
バシッ!!
「!」
荒北は新開の腕を叩いて振りほどいた。
「新開……オメー……」
荒北の困惑した表情を見て、ハッと我に返る新開。
「靖友……」
「……そうかヨ。オメー、最初っからB線なんて信じちゃいなかったのかヨ」
「……違う。靖友」
「オレに話合わせてくれてただけか!そうだよナ!こんなアニメみてェな話、馬鹿馬鹿しいよナ!」
「違う!違うよ!オレは……」
「わかったヨ!今まで付き合わせて悪かったヨ!」
「靖友!」
荒北はバタバタと楽器を片付け始める。
「靖友!オレは……」
「触んナ!!」
新開の伸ばした手を払い除ける。
悲しげな顔で睨み付ける荒北の瞳には涙が滲んでいた。
「……!!」
荒北は荷物を抱えて駆け出す。
「靖友!」
新開は追いかけようとする、が、足が動かない。
「靖友!靖友!」
荒北は走り去って行く。
「靖友ーーっ!!」
叫ぶ新開。
胸がギリギリと軋む。
これは……。
この場面は……。
まるで、あの夢と同じじゃないか……!
石のように固まって動かない足。
名前を叫ぶことしか出来ない。
胸が張り裂けるように痛い。
オレは……あの夢と同じ失敗を……!
大切な人を手離してしまった、あの夢と同じ苦痛がまさに今……!
靖友……!
オレは……。
オレはおめさんのことが……!
翌朝。
ガバッ!
飛び起きる新開。
「はぁ……はぁ……」
久々にまたあの夢を見た。
昨夜、あんなことがあったせいだろうか。
頬をつたう涙を手で拭う。
「余計な寄り道してねぇで早く運命の人と出逢って救ってくれよ、って意味かな。ははっ」
新開は苦笑いする。
しかしすぐに枕をボフッ!と壁に投げつけた。
「知らねーよ!オレはこっちの世界だけで精一杯だ!」
枕に向かって怒鳴り付ける。
「……はーー」
両手で顔を覆い、溜め息をつく。
「……すまねぇ、B線のオレ。……失敗だ。A線のオレは、おめさんを救えねぇ。だからもう、C線なりD線なり、他の世界線のオレに託してくれ。オレは……失敗したんだ……」
改めて涙が溢れてくる。
「なぜならオレは……靖友を好きになっちまったからだ。……男を……。そして……傷付けちまった……」
初めての恋と失恋を同時に体験し、新開はいつまでも涙が止まらなかった ──。