B線からのSOS (長編18頁)★オススメ
週明け。
仕事中の新開。
上司がニコニコしながらフロアに入って来た。
「みんな、ちょっと手を休めて注目してくれ」
部署の全員が上司の方を向く。
「うちの部署から社長賞が出た!」
「!!」
ざわざわ。
「社長賞……まさか」
新開が福富の方を見る。
福富も新開と目を合わせた。
「福富寿一くんだ!」
「ム……!」
おおおーー!
パチパチパチパチ!
聞こえていた隣の部署からも拍手が起こる。
「寿一!おめでとう!」
福富の席まで飛んで来て、背中をバンバン叩く新開。
「ああ、ありがとう。しかしまさか本当に……」
「当たったな!」
当たったとは、もちろん占いのことだ。
その事を話そうと思ったが、福富は上司に引っ張られて行ってしまった。
その背中を目で追いながら、新開は興奮していた。
「すげぇ……。あの占い師、本物だ!」
その晩。
barでその件を荒北に話す新開。
「へェ。占いがねェ」
「直ちに商品化するってことで、寿一はプロジェクトチームに転属だ。すげぇなぁ。出世して手の届かないとこ行っちゃうかもしれねぇなぁ」
高揚している新開に、荒北は冷静に言う。
「てェことは、オメーも当たるってことだよナ」
「え?」
「自分のこと忘れたのかヨ。ホラ“結ばれなかった運命の相手と近々出逢う”ってやつ」
「あ……!」
新開は思い出したように口に手をあてる。
「……でも、近々っていつだろう」
「曖昧な表現だよナ。数日かもしンねェし、長い人生の間じゃア3年だって近々だ」
「3年……」
「もっかい聞いてみたらァ?その占い師に」
「でもまた5千円取られる」
「ブッ!」
荒北はカクテルを吹き出した。
「5千円もすンのかヨ!ケッ!ボロい商売だなァ!」
「でも確実に当たるんなら安いよな」
溜め息をつく荒北。
「……いいなァ。オメーは出逢えるのが確定してて」
「靖友も見てもらうかい?」
「いらねーヨ。オレはオレのやり方で行く」
興味無さそうに手を振る。
「あ、それでさ。明日うちの部署の連中で寿一の祝賀会をこの近くの店でやるんだけどさ」
「あン?」
「多分出逢橋を通るんだ。靖友が歌ってる真ん前をみんなで通るよ。でも、オレ他人のフリしてるから安心してくれな」
「へェ。そりゃドーモ」
翌日の夜。
言っていたとおり、荒北が歌っている前を新開達の団体がガヤガヤと通り掛かった。
繁華街の中のストリートミュージシャンなど普通の人にとっては風景と化しているので、誰も見向きもしない。
荒北が目で追っていると、ふいに新開がこちらを見てバキュンポーズをしながらウィンクした。
それを受けて、荒北はアッカンベーで返す。
新開はニッコリ笑った。
団体はそのまま通り過ぎて行った。
「へッ。全然他人のフリなんかしてねェじゃねーか」
荒北は悪態をつきながらも、自分の方を見てくれたことが嬉しかった。
「……アイツ、ちゃんとリーマンやってンだなァ」
いつも二人でバカ話しているとそれを忘れてしまう。
会社の連中と一緒に歩いている新開は、当たり前だが社会人の顔をしていた。
荒北はそれを少し寂しいと感じつつ、新開の隣を歩いていた人物をしっかりチェックしていた。
「あの金髪ライオン頭が……親友、か」
確か初めて新開と目が合った日にも、隣にいたことを思い出した。
── 靖友と寿一は違う ──
新開はそう言っていた。
「そりャ違うだろうさ。社長賞獲るようなエリートさんとはヨ」
苛立つ荒北。
新開の言っていた事を色々思い出す。
高校の時に自転車に乗れなくなって部活を辞めたと言っていた。
あの親友は、きっとその時も新開の傍にいて慰めたりしていたのだろう。
「オレだったら……。オレだったら、アイツを立ち直らせてやった。その時オレが傍にいれば、自転車を続けさせてやれた……!」
そんな現実的には不可能なことを考えて勝手に腹を立てている自分に気付き、大きく溜め息をついて項垂れた。
そして暫し妄想を始める。
「アイツと同じ高校で、アイツと同じ部活で、みんなでワイワイやってたなんて世界線が、どこかにあるのかもしれねェ……」
しかし、そんなこと考えても無意味だし、と首を横に振る。
「オレ……どうしちまったンだろ……」
ガックリと肩を落とす荒北。
その時、荒北に女性が声を掛けてきた。
「あの……アナタのその歌……」
「エ?」
荒北は顔を上げた。