大人の問題 (短編2頁)
〜夕方〜
新開は今日も正門の前にプジョーを停め、立っていた。
通り過ぎる女子大生がみんな振り向く。
あんなイケメンが毎日お迎えに来る、羨ましいお相手とは一体誰なのだろう、と。
新開が立っている正門は、洋南大学だった──。
新「靖友!」
新開はパッと表情をほころばせ、目当ての人物に声を掛ける。
荒「おう」
現れたのは、荒北。
新開は笑顔でイソイソと助手席のドアを開ける。
荒「自分で開けるからァ!」
荒北は怒るが、新開は気にしていない。
二人はそのまま車に乗って走り去る。
金「……」
待「……」
その様子を、金城と待宮はポカーンと見送る。
待「……また今日もけぇ。なんなんじゃありゃあ」
金「……さぁ」
待「どう見てもお迎えの彼氏の構図じゃろ」
金「……ああ」
待「付き合っとんのけ?あの二人」
金「……いや、オレは知らない。というか、知りたくない。知るのが怖い」
~翌日~
洋南大学の学食。
荒「ア?」
待「だから何やっとんじゃ、と聞いとんじゃ。新開とオマエ」
一緒に昼食をとりながら、荒北に問い質す待宮。
隣りで金城も聞き耳を立てている。
荒「別にィ?晩メシ食いに行ってアパートまで送ってくれてるだけだぜ?」
待「部屋にシケ込んでなんぞやっとるんと違うか?」
金城は慌てて耳を塞ぎ、目も瞑った。
荒「なんぞってなんだよ」
待「なんぞはなんぞじゃ」
賑やかな学食で話せる内容ではない。
荒北は笑いながら言う。
荒「なんか知んねェけどよ。アイツぁ単に、車買って嬉しいから乗り回してェだけなんだよ。ウチの大学との往復ぐらいがちょうどいい距離らしくてよ。そんでついでにオレ乗っけてメシ食ってダベってるってェだけだ」
待「ホントけ?」
荒「他に何があンだよ」
金城はホッとして耳から手を外した。
荒「しかしさァ。フランス車って馴染まねェな。燃費悪りィし、ちょっとガソリン臭せェしよ。オレぁやっぱ買うなら国産車だな」
鶏唐定食を食べながら語る荒北。
金城と待宮は顔を見合わせる。
金「それはいいが……正門は目立つ。もう少し別の場所で待ち合わせたらどうだ」
金城がアドバイスする。
荒「それな。オレも言ったんだけどよ。なんか“アピール”なんだってよ。アイツに言わせると」
金「アピール?」
待「なんのアピールじゃ」
荒「さァ?知らね」
それからも数日間、新開が荒北を迎えに来る日は続いた。
ある日、部室で着替えている時に金城が声を詰まらせた。
金「うっ!」
待「どした金城」
待宮が声を掛ける。
金城は顔を青くし、震える手で待宮に指し示した。
金城が指を差した先は、荒北の後ろ姿だった。
待「……な、なんじゃと?」
荒北の首の後ろに……歯形が付いていたのだ。
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