勇者ヤストモの冒険 (長編15頁)
~隣村~
村人「ここは隣村だよ。隣りじゃなくて、ホントに隣村って名前なんだ」
荒「っせ。聞いてねーよ。あっち行け。行かねーとタンスの引き出し開けンぞ」
箱学村を出て隣村で石垣に座り、ベプシを飲んで休憩している荒北。
荒「あ~、京都伏見山までまだ遠いなァ。徒歩だと何日かかんだヨ」
キッ。
その時、荒北の目の前に不思議な乗り物に跨がった青年が停まった。
荒「?」
見上げる荒北。
青年はトゲトゲの金髪ライオンヘア、太い眉、鋭い眼光をしていた。
荒「ンだテメー。なんか用か」
福「……そのサコッシュの中に入っているのはキビ団子か?」
荒「!」
サコッシュは外から中身など見えない。
キビ団子もたいして匂いもしない筈だ。
それなのに、引き寄せられてきたということは──。
福「腹が減っている。良かったらひとつ分けてもらえると助かるのだが。このスポーツドリンクと交換しないか」
荒「テメェ……何者だ」
福「オレの名は福富寿一。職業は、戦士だ」
荒「戦士!」
福富と名乗った青年は、背中に立派な斧を背負っていた。
福「オレは、強い」
荒「聞いてねェ」
荒北は福富にキビ団子をひとつ渡した。
代わりにスポーツドリンクを受け取る。
荒「オレは箱学村から来た荒北靖友だ。職業は……」
福「職業は?」
荒「職業は……ゆ、勇……」
福「勇?」
自分で自分のことを“勇者”と名乗るのは、かなりの抵抗があった。
荒北は真っ赤な顔でしどろもどろになる。
荒「ただの村人だヨ!言わせンな恥ずかしい!」
福「!」
福富は荒北が背負っている剣に気付いた。
福「それは……まさか、マスターソードじゃないか?」
荒「え?オメー知ってンの?」
福「古い書物でしか見たことが無かったが、間違いない。マスターソードだ。ということはオマエは……」
荒「ギクッ」
福富はキビ団子を食べた手をズボンで拭き、握手を求めてきた。
福「まさか勇者に出会えるとはな。是非オレをパーティに加えてほしい。期待以上の働きを約束しよう」
荒北は驚き、感動した。
荒「ジジィの言った通りだったか。戦士が居りゃア頼もしいぜ。ヨロシクな」
二人は硬く握手を交わした。
福富寿一が仲間になった!
(ファンファーレ)
荒「ところで……」
荒北は福富の乗り物が気になっている。
荒「そのヘンテコな乗り物はなんだ?」
福「これはロードバイクだ」
荒「ロード……」
福「ロードバイクは前に進む乗り物だ」
荒「馬鹿にしてンのか」
イラッとする荒北。
福「軽くて速い」
荒「フーン。便利そうだなァ」
福「このビアンキをオマエにやろう」
荒「え?イイの?でもオメーは?」
福「オレはそこの自転車チェーン店でジャイアントを購入する。だいぶポイントカードが貯まったからな」
福富はそう言うと、寒咲と書かれた自転車ショップに入って行った。
寒「毎度ー」
数分後、新品のジャイアントを抱えて出てくると、荒北がビアンキを乗り回していた。
荒「こりャいいや!気に入ったゼ!」
荒北は福富に礼を言う。
荒「あンがとな!いいヤツだなオメー!これからは親しみを込めて“福ちゃん”と呼ぶぜ!」