勇者ヤストモの冒険 (長編15頁)
~A村~
「それだけは!それだけはご勘弁を!」
「村の御神体なのです!」
悲痛に叫ぶ村人達。
御「ズゴック。しかもシャアズゴ。ええ趣味しとるねぇ」
魔王御堂筋はその長身を腰で2つに折り、御神体の赤いシャアズゴに手を伸ばしてニタリと笑った。
御「これ、貰ろてくわ。ほな行こか」
シャアズゴを懐に入れ、消えていく御堂筋。
「ああ~。大事な御神体が~」
~B村~
「おやめ下さい!それは代々うちの村の守り神なのです!」
「魔王であろうとやられはせん!やられはせんぞ!」
御「ビグ・ザム。……渋っ。ええね。ほな行こか」
御堂筋は満足気にビグ・ザムを手に入れて消えていく。
「やられはせん……やられた……!」
~C村~
「うちの村の御神体はこれです。これでどうかご勘弁を」
御「ど~れ」
差し出された御神体を確認する御堂筋。
御「……ガンタンク……?」
ガタガタと震えている村人達。
御「……キモ!」
「ぎゃーーーっ!」
村人達は御堂筋の魔法で全員石にされてしまった。
最近、世界の各地にガンプラ好きの魔王御堂筋が出没し、御神体であるガンプラを奪っていくという事件が頻発している。
御堂筋が気に入る御神体なら奪っていくだけで済むが、気に入らない御神体だとその村の全員が石にされてしまうという。
~箱学村~
長老「うちの御神体はこちらになります……」
御「ど~れ」
確認する御堂筋。
御「これは……ザクレロ!しかも……改!」
長老「超レア物で二度と手に入りません。どうか御慈悲を……」
懇願する長老。
御「ええね!ええね!これもうボクの宝物や!ほな行こか」
上機嫌で消えていく御堂筋。
長老「ああ……我が村も奪われてしまったか……」
荒「どした、ジジィ。みんなもシケたツラして」
村役場の連中がどんよりしているのを見て声を掛ける荒北。
荒北靖友は、箱学村に住む若者だ。
今日も裏山で採ったタケノコを大量に村へ持ち帰った。
態度や目付きや口は悪いが、面倒見が良く正義感溢れる青年である。
荒「ハァ?御神体のザクレロ改が魔王に奪われたァ?」
驚く荒北。
長老「奪われたのは痛いが、村人が石にされるよりはマシじゃ。仕方ない」
荒「仕方ないって……諦めンのかよジジィ!取り返そうぜ!」
長老「魔王の魔法は強力じゃ。誰も敵わん」
荒「なんか方法はねェのかヨ!」
苛立つ荒北。
長老「待て、靖友よ。オマエ、その剣は……?」
長老は荒北の持っている剣に気付いて尋ねる。
荒「ア?これァ裏山のほこらの中に突き刺さってたヤツだ。タケノコ狩りにちょうどイイんで、引っこ抜いて使った。切れ味抜群だったぜェ」
シュッシュッとその剣を振り回す荒北。
長老「……オマエ!あの剣が抜けたのか!」
村役場の全員がざわつく。
荒「抜けたヨ?スルッと。そういや抜いた瞬間光が差してファンファーレが鳴ったなァ」
全員「おおお!」
荒「?」
荒北はなぜみんながざわざわしているのか解らない。
ガシッ!
荒「!」
長老は荒北の両肩をガッシリ掴んで言った。
長老「なんということじゃ!靖友よ!オマエは……オマエは、伝説の、勇者じゃ!!」
荒「ハァ?」
荒「──要するにィ、これは昔から誰も抜くことが出来なかった伝説の剣“マスターソード”でェ、抜いた奴は勇者だと。……ベタな設定だぜ」
長老から一通り説明を受けた荒北は呆れている。
長老「そのマスターソードなら、魔王の魔法も跳ね返すことが出来よう」
荒「ホントかよ。誰か試したのか?」
長老「靖友よ、魔王を倒すのじゃ。それがオマエに与えられた使命じゃ」
荒「ハァ?オレがァ?」
長老「準備は整っておる。すぐに旅立つのじゃ」
荒「早っ!こんな時だけ仕事しやがって」
荒北は村人達に急かされるように送り出される。
長老「これを持って行け。村に代々伝わる補給食、キビ団子じゃ」
荒「桃太郎じゃねンだよ」
長老「このキビ団子は特別じゃ。道中これに吸い寄せられてくる者がいれば仲間にせよ。きっとオマエの力になってくれるであろう」
荒「ただの食いしん坊だろ」
かくして、村人達に盛大に見送られ、勇者荒北は魔王御堂筋を倒すべく旅立つのであった。
──と思ったら、すぐに戻ってくる荒北。
長老「どうした。忘れ物か」
荒「魔王って、ドコに居ンだよ!!」
長老「京都伏見山の頂上じゃ」
荒「それ早く言って!」
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