奪われた第二ボタン (短編2頁)
黒「荒北さん!」
真「荒北さーん!」
ふいに背後から声を掛けられた。
荒北は振り向く。
黒田と真波が立っていた。
荒「よォ、どした」
二人の方を向く荒北。
黒「荒北さん!オレ……」
真「第二ボタンください!」
荒「ハァ?」
黒「真波!テメなんてことを!」
真「ください!第二ボタンオレにくださーい!」
黒「オレだって欲し……いや、そんなこと言いに来たんじゃねっス!」
真「荒北さんの第二ボタンまだ付いてる!オレに!それオレにください!」
黒「黙ってろ真波!テメェが喋るとややこしくなんだよ!」
真「だって早くしないと誰かに奪われますよ!いいんですか黒田さん!」
荒「なに言ってんだオメーら……」
真「オレ先にもらいますから!」
黒「んだとテメっざけんな!どけ!オレが先だ!」
荒北に急に猛突進してくる二人。
荒「ウワァ!!」
恐怖を感じて荒北は逃げ出した。
黒「荒北さん!」
真「荒北さーん!」
体育館裏の倉庫の陰に逃げ込んだ荒北。
荒「ハァハァ……」
息を整える。
荒「なんなんだアイツら全く……」
バタバタバタバタ!
その時、誰かが飛び込んで来た。
見つかった!
荒北は身構える。
新「靖友?」
荒「!」
顔を上げる荒北。
飛び込んで来たのは新開だった。
新「ハァハァ」
新開は荒北の顔を見てホッとしたように微笑んだ。
髪や制服がボロボロになっている。
修羅場になって逃げて来たのだろう。
新「あー、参ったよ」
倉庫の壁にもたれかかり、息を落ち着かせる新開。
荒「よく逃げて来れ……ア?」
荒北は新開の制服を見て、驚いた。
荒「オメ……第二ボタン……」
新「ん?」
新開の第二ボタンが……付いていた。
新「ああ、これ?ははっ。死守した」
新開が笑いながら答える。
荒「死守……」
新「靖友だって、まだある」
新開が荒北の制服のボタンを指差して言う。
荒「オレは……別にあげるヤツなんか居ねーし」
新「そう?じゃ……」
ぶちっ!!
荒「!!」
新開が手を伸ばして、荒北の第二ボタンを引き千切った。
新「やった!靖友の第二ボタンゲット!」
荒「な……!」
新開の唐突な行動に唖然とする荒北。
ぶちん!
荒「!」
新開は次に自分の第二ボタンを引き千切った。
新「はい」
荒北の手を取って自分の第二ボタンを握らせ、ニッコリ笑った。
荒「……!!」
荒北は驚いて声も出ない。
新「それ、オレの気持ちだから」
新開は頬を赤らめながらそう言った。
荒「気持ち……」
新「靖友。オレ、毎晩メールするよ。新居決まったら教えてくれな。オレもすぐ教えるから。なんなら合鍵だって……」
荒「オイ!いったい何言って……」
立て続けに話し出す新開を慌てて遮る荒北。
新「靖友」
新開は荒北の両肩に手を置いて、じっと目を見詰める。
新「オレの第二ボタンを渡す相手は、おめさん以外考えてなかったよ。卒業式の日に告ろうって、ずっと決めてた」
荒「告……」
新「今まで言わなかったけど、大学、離れ離れになっちまってオレすげー寂しい。だから大学行ってからも頻繁におめさんに会いたい」
荒「……」
思いがけない新開からの告白に、真っ赤になる荒北。
新「オレの第二ボタン、もらってくれる?靖友……」
荒北の目を覗き込んで尋ねる新開。
荒「お……おゥ……」
耳まで赤く染めて、荒北は新開のボタンをギュッと握りしめた。
黒「あ!いた!荒北さん!」
倉庫裏から出てきた新開と荒北を見付ける黒田と真波。
真「……!!第二ボタンが!!」
黒「うわああああ!!」
新開と荒北の第二ボタンが無くなっていることに気付き、頭を抱える二人。
真「黒田さんがモタモタしてるから!!」
黒「うあぁぁああぁぁあああ!!」
卒業おめでとう。
おしまい