テーマパークへ行こう! (短編2頁)
『絶叫ホラーマンション・改』の前に着いた。
入口は2つに分かれている。
洋風と和風の2種類だ。
建屋の外ではオドロオドロしい効果音が流れ、恐怖心を煽っている。
荒「洋風と和風……」
洋風はいわゆる“ゴースト”であり、恐怖というよりはオバケを退治するといった感じだ。
しかし和風の方は、昔ながらの肝試し系である。
荒「オレぁ洋……」
新「和風だな!行こうぜ靖友!」
新開は荒北の肩を抱いて強引に和風の入口へ向かう。
東「ではオレとフクは洋風へ行く。出口で会おう!」
4人は二手に別れ、それぞれの入口に入って行った。
墓場の中をゆっくり進む新開と荒北。
隅の方に非常口の明かりが見えるだけで、ほぼ真っ暗だ。
荒「みみみ見えねェよ何も。しし新開ィ」
新「床にうっすらとブラックライト点いてるよ。よく見ればわかるって」
ガサガサガサッ!
茂みをかき分ける音。
荒「ぎゃーーーッ!!」
荒北は新開に飛び付いた。
新「靖友……?」
荒北はギュッと抱き締めたまま動かない。
ちゃぽーーん。
井戸に水が垂れる音。
荒「うぎゃァァァァ!!」
新開に更にきつくしがみつき、片足も絡める。
新「え?」
ヒュルルルル。
人魂がフワフワ近付いて来る。
荒「ぴぎゃーーッッ!!」
痛いぐらいに新開の背中に爪を立てる荒北。
新「まさか、靖友……」
荒「だだだ誰にも言うなななな」
荒北はガタガタ震えている。
(……もきゅーーん……)
新開は、荒北の意外な一面を目撃してハートが疼くのを自覚した。
女子にはえらいモテモテな新開だが、今のところ心ときめく相手には出会えていない。
しかし、今、はっきりと判った。
自分は今荒北に“ときめいた”と。
「う~ら~め~し~や~」
ベタな幽霊ギミックが井戸から出て来る。
荒「ふにゃアアアァァ!!」
新開の頭をワシャワシャと掻きむしる荒北。
新「靖友……」
荒「ああ~~ん新開新開ィィィ」
荒北は泣いていた。
新開は胸の鼓動が激しくなるのを感じた。
こんな感情は生まれて初めてだった。
新「大丈夫だ靖友。オレがついてる」
荒「新開新開新開新開ィィィ」
新開は荒北を強く抱き締めた。
荒北の肩が震えているのが判る。
いつも威勢の良い荒北の肩がこんなにも小さく感じるなんて。
新開は新鮮さを覚えていた。
墓場になぜか落ちているテレビから、髪の長い女が這い出して来る。
新「見ちゃダメだぞ靖友」
荒「うん……グスッ」
荒北の顔を胸に埋めさせたまま、新開はゆっくり進む。
ガッ!
目を閉じたまま歩いていた荒北が、何かにつまづいた。
思わず目を開けてしまった荒北は、新開の背後に何かヨロヨロと歩み寄って来るものを目撃してしまった。
白い服を来た女が、長い髪を顔が隠れるぐらいに垂らし、右手を差し伸ばしている。
その爪は全て剥がれていた。
荒「ヒ──!!」
卒倒しそうになる荒北。
新「目を閉じろ靖友!」
新開は荒北の頭を掴んで唇を重ねた。
荒「!」
荒北はゆっくり目を閉じ、新開に身を委ねる。
新開は荒北の身体をしっかり支え、唇を吸った。
荒「……ン……」
新開に抱き締められ、荒北は心が安らいでいくのを感じた。
貞○役のスタッフは伸ばした右手のやり場に困り、立ちすくんでいた──。
出口の外で、荒北は花壇のブロックに座り込んでいる。
新「はい」
新開がベプシを買ってきて、荒北に手渡す。
荒「あ……悪りィ」
荒北は受け取ろうとしたが、まだ手が震えていて落としそうになる。
すかさず新開がベプシを掴み、荒北の手に握らせる。
荒「……」
新「……」
ベプシを挟んで握り合う手。
見つめ合う二人。
お互い顔が真っ赤になっている。
荒北が先に目を逸らして言った。
荒「誰にも……」
新「言わないよ。言うもんか。オレ達だけの秘密だ」
新開はニッコリ笑って答えた。
東「隼人!荒北!大変だ!」
そこへ、洋風の出口から東堂が駆けてきて叫んだ。
新「尽八?どうしたんだ」
東「なめていた!大量のゾンビが襲ってきて結構怖かったのだ!フクが腕組みして仁王立ちのまま気絶して動かん!助けてくれ!」
最近のテーマパークは男4人でも油断大敵のようで ──。
おしまい