アイラブ珍獣 (中編4頁)
冷や汗が吹き出ている新開をよそに、荒北は大興奮して新開の股間をまさぐる。
「ン?」
「……」
全く元気の無い新開自身を眺めて不思議そうにする荒北。
「全然フニャチンじゃねーか!なんでだよ!いつもはオレの顔見た途端おっ勃てるくせによ!」
「しょ、昭和のスケ番相手にどう欲情しろと!!」
ベッドの上で大声で怒鳴り合う二人。
「ちっ!しょーがねーなァ」
新開自身をくわえようとする荒北を、慌てて制止する新開。
「ちょ待て!待ってくれ靖友!頼むから!」
新開は荒北を突き放し、起き上がって自分自身を仕舞う。
そして、手を伸ばして荒北のカツラをバッと剥ぎ取った。
「ア!なにすン!」
セーラー服もスカートも脱がせる。
「アー!」
トランクス1枚の姿にされる荒北。
新開はペリペリッと荒北の付け睫毛を剥ぎ取り、ティッシュでアイシャドウと口紅も落とす。
荒北は全く素の状態に戻されてしまった。
「エー……」
せっかく女装してきたのに全部剥がされ、ベッドの上で呆然と座り込む荒北。
新開は荒北の頬を両手で包み、ホッとした表情で涙ぐんだ。
「靖友……。ああ、靖友だ。靖友靖友靖友」
チュッチュッと何度も口づけをする新開。
そして荒北をギュッと抱き締めた。
「好きだよ靖友。大好きだ」
「Boo~」
ブーイングする荒北。
「オレを喜ばそうと頑張って女装してくれたんだよな。その気持ち、すごく嬉しいよ。ありがとう。感激した。……だけど、おめさんは根本的に大きな間違いを犯してる」
「間違い?」
意味の解らない荒北。
「もしさっきあの状況でオレがおめさんを抱いていたら、おめさん……とんでもなく後悔してたとこだぜ」
「??」
「ピンと来てないみたいだな。じゃあ、例を出そうか」
新開は荒北の両肩をしっかり掴み、目を見て説明を始めた。
「例えば、オレが女装したとする。それで、おめさんがそれ見てすごく喜んだとする。……その場合、オレはめちゃくちゃ複雑な気分になるんだ」
「え?なんで?」
「だって……おめさん、ホントは女の方が好きなんじゃないかって。オレとは仕方なく付き合ってんじゃないか、ってオレは思っちまうよ」
「…………ア!」
荒北はようやく理解出来たようだ。
新開は荒北の顔を覗き込み、真剣な顔で言う。
「靖友。オレはな、男のおめさんが好きなんだ。おめさんに女の要素なんか求めちゃいないんだよ」
「……」
「笑わせ目的の女装なら全然構わないさ。けど、萌えるかどうかは全く別の問題だ。女装に欲情するなんてさ、大いなる矛盾なんだよ」
「……確かにそうだナ。危うくトラウマになるとこだった……」
荒北はしょんぼりする。
「悪かった……。オレ、そこまで全然考えてなくて……」
「謝ることないよ。むしろ、今日こういう話し合いが出来て良かった」
新開はニッコリ微笑む。
「おかげで靖友に対する想いが一貫してるってこと、オレも再認識出来た。無駄じゃなかったよ」
そう言って優しく口づけをした。
「そうだなぁ。どうせ昭和の不良(死語)の仮装してくれるんなら……」
唇を離すと、新開はちょっと考えてから言った。
「スケ番よりも、リーゼントに長ランとか、特攻服とか。うん!いいなこれ!」
「ツッパリ(死語)ってやつか?」
「そう!靖友の長ラン姿!やべぇ!想像したら勃っちまった!」
「オマエどんだけ上級者なんだ」
呆れる荒北。
「靖友っ!」
興奮して荒北を押し倒す新開。
しかしそっぽを向く荒北。
「オレぁもう萎えた。ケーキ食おうぜケーキ」
「オレは靖友を食う!」
「ウゼェ。どけ」
「やだ!」
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。
「誰かな」
ドンドンドン!
更に玄関ドアが叩かれる。
「新開さん!新開さん!警察です!」
「け、警察?」
驚いて飛び起きる新開。
荒北は思わず布団にくるまって身を潜めた。