続・喫茶チャリダー (中編7頁)★オススメ





タクシーで国際線へ駆け付け、建屋内に飛び込む新開と福富。

 

 

新「靖友!靖友ぉ!」

 

 

名前を叫んで見渡す新開。

24時間ターミナルのため、夜でも人が溢れている。

 

福「待て新開!この広さだ。闇雲に探してもダメだ」

 

福富は案内板を見て、新開を導いた。

 

 

 

 





 

荒「どォこ行こうかなァ……」

 

 

荒北は肩から輪行袋を提げ、国際線出発フロアでディパーチャーボードを眺めていた。

 

 

パスポートと財布と自転車だけを持って衝動的に飛び出してきた。

着替えすら無い。 

チケットも当然買っていない。

今から乗れる便で、ビザのいらない国を適当に選ぶつもりだ。

 



とにかく、一刻も早く日本から離れたかった。

後のことはそれからゆっくり考えればいい──。

 

 

 

 

その時、館内放送で自分の名が呼ばれていることに気付いた。

 

 

荒「ン?……オレ?」

 

 

落とし物があるから案内所まで来いという内容だ。

 

荒「なんか落としたっけオレ。カードか?」

 

一瞬無視しようかとも考えたが、個人情報のわかる物がいつまでも案内所に在るというのも気持ち悪い。

 

荒北は案内所に向かった。

 

 

 

 

 

荒「今放送で呼ばれてた荒北スけど……」

 

案内所のカウンターで係員に尋ねる荒北。

 

 

真横から自分に近付く人物の気配を察知し、そちらを向く。

 

 

荒「新……!!」

 

 

横に立っていたのは新開だった。

驚く荒北。

 

 

 

パァン!!

 

 

 

荒北の目から星が飛び出た。

 

新開が荒北の頬を平手打ちしたのだ。

 

 

ガシャーン!

 

荒北は輪行袋と一緒に吹っ飛ぶように床に倒れた。

 

 

「キャーッ!」

 

案内所の係員と、周辺の客が驚いて悲鳴をあげる。

 

 

 

 

高校時代、新開とは何度か殴り合いの喧嘩をした。

しかし、パーで平手打ちされたのは今回が初めてだった。

パワーは荒北より新開の方がずっと上だ。

 

頬だけでなく耳も頭も、頭部の半分がジンジンと痛い。

目からはまだ星が出続けている。

頭の上でヒヨコがピヨピヨと回っている状態だ。



荒北は頬を赤く腫らしたまま、目の前に立つ新開をポカンと見上げた。

 



新開は怒りの形相で身体を震わせながら、叫んだ。

 

 

 

新「オレの幸せを勝手に決めるな!!」

 

 

 

そして屈み込み、荒北をギュッと抱き締めた。

 

 

新「オレの幸せは、おめさんと結婚することだ!」

 

荒「……へ?」

 

 

まだ頭が働いていない荒北。

 

 

 

新「好きだ、靖友。初めて出会った時からずっと。オレは高校時代からおめさんしか眼中にないんだ!」

 

荒「……へ?」

 

 

新「社長の娘との縁談は断ったよ。ついでに会社も辞めた」

 

荒「……へ?」

 




荒北は、新開が何を言っているのか理解に時間がかかっている。

夢でも見ているような感覚だ。

 



ふと見ると、傍で福富が自分達を見下ろしているのに気付いた。

 

福富と目を合わせると、福富はゆっくりと頷いた。

 

 

それを見て、荒北はようやくこれは現実なのだと理解出来てきた。

 

 

 

新「どこにも行かないでくれ靖友。ずっとオレの傍に居てくれよ……」

 

荒「……」

 

 

荒北の目に涙が浮かぶ。

 

この涙は、頬の痛みのせいではないと確信した。

 

 

新開は抱き締めていた腕を離し、荒北の両肩を掴む。

 

荒北の顔を正面から見つめ、はっきりと言った。

 

 

新「靖友……。オレと結婚してくれ」

 

 

 

荒北の瞳から涙がどっと溢れ落ちた。

 

 

 

荒「……しょうがねェなァ。一生アシストしてやんよ」

 

 

荒北はそう答えて新開を思い切り抱き締めた。

 

 

 

 

「ワーー!」

パチパチパチパチ!

 

いつの間にかギャラリーが出来ていて、事の顛末を見守っていた観客達から一斉に歓声と拍手が上がった。

案内所の係員もホッとしている。

 

 

ちょうど民放TV局の撮影クルーが居合わせていて、二人にインタビューしようとマイクとカメラを近付けて来た。

 

 

二人は驚いて、福富を連れて逃げるように空港を去った──。















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イイネ