続・喫茶チャリダー (中編7頁)★オススメ
~月曜日~
夕食時。
カウンターに座って食事が出来るのをおとなしく待っている新開。
背後の4人掛けテーブルでは泉田、黒田、葦木場の3人が生クリームたっぷりのパンケーキに喰らいついている。
昨日は店の前の砂利道で取っ組み合いになっていた黒田達だが、寒咲の計らいで許してもらったようだ。
葦木場はあれからステッカーを全て処分させられた。
荒「オメーの好きなシーフードカレーな」
荒北が新開の前にカレーとサラダを置く。
新「ありがとう」
ニッコリ微笑む新開。
荒「今日はプリプリのホッキ貝が入ってンぜ。いいダシ出てンだ」
新「うん。旨いよ」
いつもと違い、元気の無い新開が気になる荒北。
荒「……どした?会社でなんかあったかァ?」
新「……」
黙り込んで細々と食べる新開。
荒「……」
話したがらないなら無理に聞くのはやめようと、荒北も触れないことにした。
黙って食べ終えた新開にコーヒーを出す。
ウサギのマグカップで一口すすった後、新開が口を開いた。
新「靖友……。オレ、ずっと靖友の傍にいたい」
荒「は?」
新「ずっとずっと。一生ずっと死ぬまでずっと。ずっとずっと」
荒「お、オイオイ」
新「だめ?」
荒「何言ってンだオマエ」
ちょっといつもと様子が違うとは思ったが、荒北は先日福富に言われた台詞を思い出した。
── 最早依存症レベルだぞ。
甘やかし過ぎだ ──
それは荒北も同感だった。
新開は荒北に過剰に依存している。
この前も行き倒れていたし、どんどんエスカレートしていると懸念していた。
荒「……あのさァ、新開」
荒北は諭すように言う。
荒「オメー、もう、あんまココ来んな」
新「え……?」
荒「一日のほとんどココに入り浸りだろ?オメーあまり会社の奴らと交流してねェんじゃね?実業団だからって、一応会社の一員なんだからヨ」
新「……」
荒「社員寮に入ってンのに社食全然使わねーし、同僚との飲み会とかちゃんと参加してンのか?してねーだろ。付き合い悪りィ奴って思われてンぜきっと」
新「……」
荒「福ちゃんはちゃんとこなしてンだろ?ココにもたまにアップルパイ食いに来る程度だし。オメーもその位の頻度でイイんじゃね?」
新「……」
新開は悲しそうな顔をして言う。
新「オレ……ウザい?」
荒「いや、そーゆーワケじゃなくて。心配なンだよ。オメーが会社で孤立してンじゃねーかって。オレは身軽だからいいけどヨ、オメーは会社員なんだから。会社のおかげでチャリやらせてもらってるって意識持たねーと」
新「……」
背後のテーブルでヒソヒソ話をする泉田達。
泉「また新開さんプロポーズしてるぞ」
黒「そして相変わらずフられてるな」
葦「めげないねー」
泉「あの忍耐力と持久力と諦めない心は見習うべき点だな。さすが新開さん」
黒「つーか、アプローチが遠回し過ぎて伝わってねーんじゃね?」
葦「しかもなんか説教されてるし」
泉「まぁ、荒北さんの意見も尤もだとは思うけどな」
黒「会社員って大変だな」
葦「就職したくないなーボク」
新開は席を立った。
新「うん……。わかったよ靖友。……おやすみ」
荒「……ああ。頑張れヨ」
~火曜日~
翌日の夕方。
今日、新開は朝も昼も姿を見せなかった。
顔が見れなくなったのは残念だが、ちゃんと会社に居続けるようになったのは良いことだ、と荒北は自分を納得させた。
カランコロン。
入ってきたのは、福富だった。
荒「福ちゃん。いらっしゃい」
福「仕事中だから要件だけ伝える」
荒「?」
福富はカウンター越しに荒北の正面に立って言う。
福「いずれは耳に入る事だ。噂で聞くよりはマシだろうと判断したから、オレから報告する」
荒「な、なんだヨ。改まって。いい話?悪い話?」
ビビって身構える荒北。
福「昨日、新開に結婚話が出た。相手はうちの社長の娘だ」
荒「──!!」