続・喫茶チャリダー (中編7頁)★オススメ
~土曜日~
国際線到着フロア。
ターンテーブルで荷物を待っている荒北がぼやく。
荒「あァもう帰ったら夕方だなァ。だりィ……」
ビジネスクラスの完全リクライニングとはいえ、やはりベッドとは違い疲れる。
アライバルラウンジで一休みしていこうかと思ったが、やはり真っ直ぐ帰宅することにした。
大きなリュックを背負い、最寄り駅からチャリで丘を登る。
しばらく店を閉め、荒北はインドネシアとシンガポールを巡りコーヒーや小物の買い付けに行っていた。
買い付けは、いつも新開が遠征で数日不在になる日程に合わせている。
荒「そうしねェとギャアギャアうるせェからなァ、アイツぁ……ン?」
ログハウスへ帰って来た荒北は、店の入口前に何か異物が落ちているのを発見した。
荒「オレんちの前に……行き倒れが」
倒れていたのは、新開だった──。
新「入口の貼り紙には帰って来るの昨日ってなってるじゃないか!」
荒「帰りの飛行機が欠航になったから1日ズレたンだヨ!よくあることだろーが!」
新「だったら連絡ぐらいくれよ!」
荒「メンドクセェな帰国早々ギャアギャアと!」
介抱されて息を吹き返した新開は開口一番荒北を責め立てた。
しかしすぐに力尽きる。
腹がグーグー鳴っている。
新「腹減ったよ靖友~。死ぬ~」
荒「オレが居ねェ時は寮で食えヨ!」
新「靖友のメシがいい」
荒「……ちっ」
とりあえず新開にバナナを数本与え、荒北はカウンターに入って食事の用意をする。
ついでに自分の分も作った。
荒「ホラ食え」
出来上がったのは生姜焼き定食だ。
新「うわぁ!スゲー!いただきまーす!」
目を輝かせる新開。
荒「オレがこれ食いたかったんだ。やっぱ日本食が恋しくなるわ。海外の醤油は味が違うからなァ」
荒北はカウンターの中で立ったまま自分の分を食べる。
新「旨いー。モグモグ。旨いよぉ。モグモグ。やっぱり靖友の味付けが最高だよぉ」
荒「食うか誉めるかどっちかにしろ」
満面の笑みで美味しそうに頬張る新開を眺めていると、荒北も出張疲れが吹っ飛ぶのだった。
高校時代数年間、寮の食事を共にした。
新開がどの料理にどう反応したか、かけるソースや塩の分量はどうだったか。
荒北は、新開の味の好みを完璧に覚えていた。
荒「餌付け……」
荒北はボソッと言った。
新「え?」
新開が顔を上げる。
荒「オメーは餌付けされたウサギだな」
新「うん!オレ靖友に餌付けされた!」
笑顔で答える新開。
荒「誉めたんじゃねェよバァカ……」
荒北は新開の眩しい笑顔から目を逸らした。
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