喫茶チャリダー (中編6頁)★オススメ
荒「出来たぜェ」
新開の目の前に出されたのは、山盛りのカルボナーラにたっぷり野菜スープだ。
新「うわぁ!旨そう!いただきます!」
バクバクとがっつく新開。
新「旨いよ靖友ー!オレ幸せー!」
荒「そりゃ良かったナ」
口いっぱいに頬張り喜んでいる新開を眺めながら、荒北は説明する。
荒「ちゃんとよく見ろ。そのパスタ、マカロニみてェに中が空洞なんだぜ」
新「え?あ、ホントだ」
荒「その分、ソースが絡み易いんだ」
新「へー。モグモグ」
荒「ちょうどイタリアのいいパスタとチーズが手に入ってナ。オイ、ちゃんと野菜も食え」
世話を焼く荒北に、新開が言った。
新「なぁ靖友。一生オレのメシ作ってくんない?」
荒「……そんなセリフは女に言ってやれ」
新「ちぇっ。つれないなぁ、おめさんは」
新開は何事も無かったかのようにパスタを食べ続けた。
泉田達のテーブルがどよめく。
泉「聞いたか?今新開さん、荒北さんにプロポーズしたぞ」
黒「ソッコーでフられてたな」
葦「え?冗談だよね?今の」
泉「新開さんでもフられることあるんだなぁ」
黒「つーか、荒北さんが落ちなさ過ぎなんだろ」
葦「えー?冗談じゃないの?ホントなの?」
ゴシップで盛り上がる3人組は、今後二人の関係がどうなるのか観察しよう、ということに決めた。
コロン。
閉店時刻になり、外の看板を下げてclose札を掛け、店内に戻ってきた荒北。
壁の写真を眺めている新開。
荒「帰んなくていいのか?」
新開はそれには答えず、写真の話をする。
新「これホント、時系列に並んでてすごい解り易いよな。高校ん時のから最近のまでズラリと。みんなの歴史だ」
荒「まだまだ現役の奴が多いからなァ。もっと写真増えるぜ」
荒北は新開の隣に立って、一緒に写真を眺める。
荒「ホラ、オメーと福ちゃんの来月のレース用にここ空けてあんだ」
スペースの空いている壁を指差す荒北。
来月の日付と大会名の書いた札だけ既に貼ってある。
新「これ、すごくモチベーション上がるんだぜ。ここの壁に写真飾るために絶対表彰台に立つんだ、って。寿一といつも言ってるんだ」
荒「お役に立ててなによりだぜ」
新「ありがとうな、靖友」
新開は荒北を見つめて礼を言う。
荒「礼の言葉より、写真の方がオレぁ嬉しいんだヨ」
荒北は顔を赤らめ、そっぽを向く。
新開は一番奥のソファ席に行き、飾ってあるギターを手に取った。
新「ね、歌ってよ靖友。オレの好きないつものやつ」
荒「またかよ」
荒北は溜め息をつきながら、新開からギターを受け取る。
新「ライブとかすればいいのに」
荒「人集めるほど上手くねんだ」
新「上手いと思うけどなぁ。オレは好きだよ、おめさんの歌声」
~ボロン。
ギターを弾き始める荒北。
新開の好きなやつというのは、エリッグ・グラプトンのチェンジ・ザ・ワールドという曲だった。
“もしも世界を変えられるなら
君の心の太陽になりたい
君を照らし導ける存在になりたい”
という内容の歌である。
荒北も、この歌が好きだった。
── 歌い終わると、新開はクッションを抱き締めたままソファで眠っていた。
荒「寝てるし」
荒北はギターを片付けた。
新開の側に寄って、寝顔を眺める。
手を伸ばして新開の赤毛をそっとかき上げ、顔を近付けた。
新開の唇に、自分の唇を3秒ほど押し付ける。
唇を離し、暫く見つめる。
荒「……」
ハァ、と溜め息をついて首を横に振った。
荒「おっとヤベェ。こんなとこ誰かに見られ……!!」
ギョッとする荒北。
窓の外で目をまん丸にして固まっている人物と目が合ったのだ。
荒「福ちゃ……!!」
心臓が口から飛び出そうになる荒北。
福ちゃんだ!!
福ちゃんに見られた!!
福富はそのまま入口に回り、ドアを開けた。
カランコロン。
荒北は青ざめて固まったまま福富を凝視している。
福「新開を迎えにきた。ちっとも帰って来ないからきっとここだろうと」
荒「そ、そう……」
滝のように冷や汗が流れる荒北。
福「起きろ新開。帰るぞ」
新開の肩を揺する福富。
新「ん……寿一……あと5分……」
寝ぼける新開。
福富は新開の肩を抱え、引き摺っていく。
二人の後ろ姿を固まったまま目で追う荒北。
ピタッ。
福富が足を止めた。
福「荒北」
荒「ハ、ハイ!」
気をつけの姿勢で返事する荒北。
福「……オレは何も見なかった」
荒「福ちゃんマジ天使ィィ!!」
荒北は二人が出て行くまでずっと土下座していた ──。