喫茶チャリダー (中編6頁)★オススメ





雲ひとつない快晴。

澄んだ空気の早朝。

 

1台のロードが丘の頂上を目指していた。

 

 

その頂上に建つのは1軒のログハウス。

敷地に近付くにつれ、コーヒーの良い香りが強くなってくる。

 

 

 

 

カランコロン。

 

 

 

新「おはよう靖友!いつものね!」

 

 

新開は入口ドアを開け、入るなり元気良く注文した。

 

 

荒「うっス新開。てか、まだ開店5分前だっつーの。ったくしょーがねェな」

 

デニム生地のエプロンをした荒北がカウンターの中から悪態をつく。

しかし淹れたてのコーヒーはすぐに出てきた。

新開がフライングで来店するのは解っていたようだ。

 

 

新「はぁ~いい香り。靖友のコーヒー飲まないと1日が始まらねぇ」

 

荒北の正面カウンターに座り、ウサギの絵が描かれた大きめの新開専用マグカップを両手で持ち、新開は幸せそうな表情で香りを堪能した。

 

 

荒「ほらヨ」

 

荒北が新開の目の前にモーニングプレートを置く。

厚切りトースト、両面目玉焼き、ソーセージ、カリカリベーコン、サラダ、フルーツ、ヨーグルト、そしてなぜか味噌汁。

目玉焼きは、新開は半熟だとすぐにテーブルにダバダバとこぼすため、両面焼きにしてある。

 

 

新「いただきま~す」

荒「どーぞォ」

 

満面の笑みでパクつく新開を眺めながら、荒北も自分のコーヒーを口に含んだ。

 

 

 

 

 

荒北は大学卒業後、就職せずに数ヶ月外国を旅してきた。

帰国後、この丘の頂上にログハウスを建て、喫茶店を開業した。

資金は「海外で稼いだ」と言っていた。

 

店名は“喫茶チャリダー”。

名前の通り、自転車愛好家の集う店である。

 

店内は様々な自転車グッズが展示され、販売もしている。

高校から大学時代の部活や各大会やツーリング時の写真、トロフィー、シングルゼッケンのレプリカ、ユニフォーム、有名プロ選手のサイン色紙等が壁にところ狭しと飾られている。

奥には趣味のギターやベース、キーボード等も置いてある。

 

 

新開は大学卒業後、福富と共にロードバイクメーカーに就職し、実業団でレーサーとして活躍している。

会社の社員寮はこの近くだ。

寮にもちゃんと社食があるのだが、毎朝、昼も夜もほとんど荒北の店に食べに来ていた。

だから荒北は新開にはなるべくプロ選手用の食事メニューを特別に提供するようにしている。

 

 

 

 

シャコーンシャコーン……。

 

店外からロードを漕ぐ音が近付いてきた。

 

 

シャコーンシャコーン。

キキーッ。

ガシャーン!

 

 

 

荒「来たぞォ。やかましいのが」

新「今、ガシャンって言わなかったか?」

 

カランコロン。

 

 

 

真「荒北さーん!おはよーございまーす!」

 

真波が弾ける笑顔で来店した。

 

 

荒「おう。真波、焦んなくても店は逃げやしねェよ。チャリ起こして来い」

真「はーい!あーっ!新開さんまた1番乗り!フライングしてるでしょ!ズルいですよ!」

新「悪いな真波。今朝もオレの勝ちだ」

 

 

 

真波も毎朝モーニングを食べに来る常連だった。

高校時代から遅刻癖が酷かった真波だが、毎朝荒北の店に通うようになったおかげで大学に遅刻しなくなった。

 

真「荒北さん聞いて聞いて!オレ昨日試験で満点取りましたー!」

荒「おお、やるじゃナァイ。玉子にケチャップで花丸描いてやっからなァ」

新「ぷぷぷ」

 

真「いつまで子供扱いですかー!オレもう二十歳ですよ!」

荒「この前までブラックコーヒーも飲めなかったのは誰だァ?」

真「うー」

 

真波にコーヒーとモーニングプレートを出す。

真波の専用マグカップには白い羽の絵が描いてある。

 

 

 

真「ねーねー荒北さん、オレここでバイトしたい。雇って下さい」

 

真波がトーストにかじりつきながら言う。

 

荒「人雇えるほど儲かってねェんだヨ。みんながコーヒー1杯で一日中粘るおかげでなァ」

真「じゃあバイト代いりませんから雇って下さい」

荒「労基に怒られンだろが。オレを破滅させてェのかテメェ」

 

 

その時、店外にタクシーが停まった。

 

荒「なんだ?わざわざタクシーで来る客って」













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イイネ