蒼い赤信号 (短編3頁)
翌日。
「靖友くん。昼メシ、一緒に食おうよ」
新開の方から誘ってくれた。
荒北が断る理由は無かった。
二人は校舎の屋上で、フェンス元の段差に座って昼食をとっている。
新開が、荒北の髪を眺めながら言った。
「もうリーゼントにしないのかい?」
「するわけねェだろ」
新開は手を伸ばし、荒北の髪に触れた。
「!」
ドキッとする荒北。
「自分でハサミで切ったんだって?」
「……あァ」
心臓の鼓動が速まる。
「かなり刈ったね。もう少し伸びたら、馴染んでちょうど良い感じになるな」
荒北の髪をつまんで毛先を見ている新開。
「お、オメーだって……」
荒北はドキドキを誤魔化すように新開の方に話題を振った。
「その赤毛……」
荒北は新開の赤毛に触れる。
思っていたよりサラサラでフワフワで驚く。
「そんなマジメスタイルじゃなくて、もっと伸ばせば……」
「ん?」
もっと伸ばせば、もっと甘い感じに……。
と言いかけてやめる。
新開は、髪に触れてもらっているのが気持ち良いのか、目を閉じている。
「もっと……耳が隠れるぐらい……」
「靖友くんがそう言うなら、伸ばそうかな」
荒北はそのまま顔を近付けていき──。
新開の唇に自分の唇を重ねた。
「!!」
新開は驚いて目を開けた。
唇を離した荒北も、自分の行動に驚いて目を見開いている。
お互い真っ赤になって見合う二人。
「靖……」
「お、オレ……悪りィ!」
荒北はあたふたとして、謝りながら立ち上がろうとする。
しかし新開は荒北の腕を掴み、引き留めた。
「靖友くん」
その腕を引き寄せ、もう一方の手を荒北の首に回し、今度は新開の方から口づけた。
「ン……ッ」
激しく荒北の唇を吸う新開。
戸惑う荒北。
すぐに唇を離して、新開は言った。
「口、開けて」
「エ?」
すかさず荒北の口の隙間に舌をねじ込む新開。
「ウ……!」
何が起こっているのか、わけがわからない荒北。
最初にキスをしたのは確かに自分からなのだが、いつの間にか床に押し倒されている。
新開は息を荒くして荒北の首筋を舐めまくり、シャツの裾から手を入れて胸を撫で回している。
「アッ、ア……」
頭がボーッとしてくる荒北。
新開は荒北のベルトを外し、トランクスの中へ手を入れようとしている。
「!!」
さすがにこれはマズイ。
キスはともかく、こんなことまでは全く考えていなかった。
それに屋上とはいえ校内だ。
しかし押さえつける新開の力は想像以上に強く、身動きが取れない。
そうこうしているうちに荒北自身は新開に捕らえられてしまった。
「アアッ!アーーー!」
二人はそのまま午後の授業には出て来なかった──。
「靖友。今日の周回メニュー、一緒に行こうぜ」
「オレ、ローラーやんねェと」
「いいだろ後で。オレ引いてやるから」
「ンな勝手に……」
強引に部室から荒北を連れ出す新開を見て、福富が首を傾げる。
「あの二人、いつの間に仲良くなったんだ」
「あの新入りを下の名前呼び捨てにしているぞ」
東堂も不思議がる。
「新開が爆笑している」
窓の外を見て驚く福富。
「なぬ?オレが練りに練った渾身のジョークを披露してもクスリともしなかったというのにか!」
悔しがる東堂。
「……まあ、新開が明るくなったのは喜ばしい」
「おのれ、あの新入り。オレは認めん!認めんぞ!」
誰も知らない、二人の蒼い頃のエピソード ──。
おしまい