蒼い赤信号 (短編3頁)
今日も二人は一緒にコンビニへ餌を買いに出掛けていた。
相変わらず荒北は、信号を守らずヒョイヒョイと赤で渡って行く。
しかしその先で、新開が来るのをじっと待っているのだった。
「ノロマ」
「せっかち」
悪口を言い合いながら歩く二人。
次の交差点だった。
いつものように赤で渡りかけた荒北に、猛スピードでGT―Rが突っ込んで来たのだ。
「危ない!!」
咄嗟に新開は荒北の腕を掴み、引き倒した。
クラクションを鳴らしながら走り去るGT―R。
「……」
歩道に倒された荒北はビックリして目を白黒させている。
荒北を見下ろす新開。
「せっかちは構わないが……命は粗末にするな」
言い方はソフトだが、明らかに怒っていた。
いつも穏やかな新開が見せた怒りの表情に、荒北はビビる。
「わ……悪かった」
荒北は謝った。
その日、新開は口を聞いてくれなかった──。
翌日。
反省した荒北は、お詫びに餌をたくさん購入しようと一人でコンビニへ向かっていた。
今日はおとなしく歩行者用信号が青になるまで待っている。
なんとか新開の機嫌が直ってくれないか。
昨日からそればかり考えていた。
「しかし……くっそ遅せェ」
普段信号を守らない荒北は、赤から青に替わるのはこんなにも時間がかかるものなのかと痛感していた。
しかし、どれだけかかろうが、自分は二度と信号無視はしまいと誓ったのだ。
今はイライラするかもしれないが、慣れなくてはいけない。
こういうのは習慣づけることが大切だ。
ポチッ。
その時、隣で音がした。
見ると、新開が横断用ボタンを押していた。
「……」
「……」
顔を見合せる二人。
プーーーッ!!
新開が吹き出した。
「なっ……」
真っ赤になる荒北。
新開は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「ちっ」
荒北はみっともない姿を見られて恥ずかしかったが、それよりも新開の笑顔が見れて嬉しいと思う気持ちの方が強かった。
新開は笑い終えると荒北の肩に腕を回した。
歩行者用信号が青に替わる。
「行こ」
新開が荒北に微笑みかけた。
荒北はおとなしく一緒に横断歩道を渡る。
顔の赤面はいつまでも引かなかった──。
「ウサギの餌っていうとキャベツのイメージが強いんだけどさ、実は人参の方が好きなんだぜ」
ウサ吉に人参を与えながら新開が説明する。
「フーン」
斜め後ろに立つ荒北が答える。
くっそ。
キレイな横顔しやがって……。
荒北は新開の説明など上の空で、横顔にみとれていた。
バリバリバリバリ。
新開は後ろで発せられている異音が気になり振り向く。
すると、荒北が脇に抱えたキャベツをバリバリ喰らいながら自分をじっと見ていた。
プーーーッ!
新開は吹き出した。
「なンだよ!なに爆笑してンんだ!」
どうもオレは色々新開のツボにはまるらしい。
なんだかよくわからないが、コイツが悲しげな表情をする時が少しでも減ってくれるならそれでいい。
荒北はそう思っていた──。