チャリデカ2《カジノ編》 (長編20頁)★オススメ
~屋上~
署の屋上のベンチで、泉田と黒田が缶コーヒーを飲みながら休憩している。
泉「さっきの荒北さんの話、面白かったな」
黒「ああ……」
泉「要するに、今回の事件は“正統派プロとイカサマ師の対決”ってことか。ワクワクするなぁ」
黒「……」
黒田が遠い目をして空を見ている。
泉「どうした?ユキ。元気ないじゃないか」
黒「塔一郎……オレさ……」
黒田がボソッと呟いた。
黒「オレ……荒北さんに惚れてんだ」
泉「!」
唐突なカミングアウトに驚く泉田だったが、その内容にはもうずっと前から気付いていた。
泉「……知ってたよ。高校の時からだろ?」
黒「気付いてたのか……」
泉「オマエ、中学の頃は普通に女子と付き合ってたのに、高校でチャリ部入ってから全くチャラチャラしなくなったもんな」
黒「オレ、チャラチャラしてたのかよ……」
いつものツッコミも元気が無い。
黒「オレ……あのヒトに憧れて、あのヒトが目標で、あのヒトに追い付きたくて……」
泉「……」
泉田は黙って聞いている。
黒「いつか、あのヒトを追い越すことが出来たら……告ろう、って……」
泉「……」
黒「だけど……」
黒田は下を向いて力無く笑った。
黒「ハハハ……。さっきの話聞いてたら……もう、無理。全然無理って……」
泉「無理?」
黒「あのヒトの発想力、行動力、理念、ロジック……全く敵わねーっつーか、別次元っつーか、追い付くとか追い越すとか、無理ゲーって……」
泉「ユキ……」
黒「オレは、広く浅く器用なだけで、突出した才能も無くて、何も……」
泉「そんなふうに考えるのよせよ」
黒田は泉田をチラッと見て言う。
黒「高校の時さ……ファンライドであのヒトに勝って……すげぇ嬉しかったんだ。けど……」
泉「……」
黒「あんなの、あのヒトにとっちゃ何でもなくて、あの時点であのヒトはもう既に全然違う世界に目を向けてたんだなって……」
泉「……」
黒「オレ、身の程知らずってか、今頃気付いたのかよってか……」
泉「じゃあ、荒北さんを諦めることにしたのか?」
黒「いや」
泉「?」
黒田は顔を上げて言った。
黒「目標を下げることにした」
泉「え?」
黒「追い越すとか大それたこと考えるから挫けるんだ。もっと実現可能な目標からひとつひとつコツコツと行くよ」
泉「そ、そう」
親友の失恋を慰める展開になると思っていた泉田だが、意外と前向きだった黒田に驚きを隠せない。
黒「オレは、あのヒトの役に立ちたい。まずは、あのヒトが福富さんのエースアシストに選ばれたように、オレもあのヒトのエースアシストに選ばれるよう頑張るんだ」
泉「……うん。そうだな。それはいい目標設定だと思うよ」
泉田は黒田の肩をポンと叩いた。
黒田は言いたいこと言ってスッキリしたように、缶コーヒーの残りを一気に飲み干した。