チャリデカ1《八百屋お七編》 (短編3頁)
チーム箱学の作戦会議のため、新開と荒北は会議室に向かって廊下を歩いている。
荒「でさァ、待宮に聞いたんだよ、オメーが怒ってる理由を」
新「えっ?」
新開はギョッとする。
荒「だけどさァ、結局教えてくんねェんだ」
新「ホッ」
荒「で、オメーに伝えといてくれって。『ひとつ貸しじゃ』」
新「うっ」
待宮に余計な弱味を握られてしまい、新開は軽はずみな行動を後悔した。
~会議室~
チーム箱学のメンバーを集め、東堂はホワイトボードの前に立って話し出した。
東「本日の議題は『太陽にほれろ!』だ」
荒「ハァ?」
全員顔を見合わせている。
東「つまりだ!」
東堂はドヤ顔でこう言い切った。
東「これからはニックネームで呼び合うのだ!」
ざわざわ。
荒「例えが古過ぎンだよ!今時誰も『太陽にほれろ!』なんか知らねーよ!昭和か!」
ブーイングを浴びせる荒北。
東「何を言うか。『太陽にほれろ!』はチーム刑事物ドラマのパイオニアだぞ。参考にして何が悪い」
泉「『アブねぇ刑事』なら僕が主役ですね」
真「決めゼリフは“下げますよジッパー。本気の時はね”」
新「プッ」
荒「ギャハハハハ!腹痛てェ!」
泉「アブーッ!僕の名ゼリフが台無しに!」
黒「真波……。オマエその天使のような笑顔で下ネタ言う癖やめろ?な?」
真「えへへ~」
下ネタで盛り上がっているメンバー達をよそに、東堂はホワイトボードに全員のニックネームを書いていく。
福富……ボス
東堂……山神
新開……直線鬼
荒北……野獣
泉田……カラーコーン
黒田……クソエリート
真波……不思議ちゃん
泉「ちょ!なんですかその“カラーコーン”て!僕には“神奈川の最速屋”という立派なあだ名が!」
東「ここは神奈川ではないのだよ泉田。そして都会の市街地ではもう貴様に最速は無理だ」
泉「だからってカラーコーンは無いでしょうカラーコーンは!トラウマなのに!」
泉田は泣き崩れる。
黒「オレもなんスか“クソエリート”て。“エリート”でいいでしょう」
真「クソエリートさん」
黒「殺すぞ」
黒田は立ち上がって長机にバン!と両手をつく。
黒「オレをクソエリートと呼んでいいのは荒北さんだけっス。他の奴に呼ばれてもムカつくね」
苛立っている黒田に荒北が声を掛ける。
荒「よーし、じゃあオレがもっとイイあだ名つけてやンよ黒田ァ」
黒「マジっスか?なんスか?」
黒田の表情がパアッと明るくなる。
荒「“かさぶた”」
黒「クソエリートでいいっス」
荒「福ちゃんだけ“ボス”ぅ?“鉄仮面”じゃねェの?」
荒北は東堂に質問する。
東「荒北。そもそもは貴様がフクをいつまでも“ちゃん”付けで呼んでいるから思い付いた議案なのだ。オレ達はもう学生ではない。社会人なのだ。そしてフクには係長という役職があり貴様の上司だ。しめしがつかんではないか。ならばいっそのこと全員をニックネームでだな……」
荒「福ちゃんは福ちゃんだぜ。なァ、福ちゃん」
福「オレは別になんでも構わん」
東「フク!貴様がそうやって無頓着だから規律がガバガバなのだぞ!」
イラつく東堂。
新「でもいきなり全員ニックネームって言われてもなぁ。馴染まないし。オレは今まで通り言い慣れた寿一とか靖友の方がいいよ、山さん」
東「いくらオレが山神だからって“山さん”と呼ぶのはやめろ隼人!オッサン臭くてかなわん!」
新「え?だってそこ、山さんのポジションじゃないか。ピッタリだろ山さん」
荒「ホラ、結局テメーだって嫌がってんじゃねーか。ニックネームで呼び合うなんて無理無理。ハイ解散!」
荒北が両手を挙げて立ち上がると、みんなも席を立って会議室を出ていく。
東「おい貴様ら!勝手に解散とは!ああ、またグダグダで終わった!一度ぐらいまともに会議せんか!」
東堂が呼び止めたが、みんな行ってしまった。
会議室には東堂と福富だけが残る。
福「みんな室内にいるより現場に出ているのが好きなんだ。いいことじゃないか、山さん」
東「だから山さんと呼ぶなー!」
検挙数はトップだが、再犯率も高い。
全員がエースだが、何のエースかわからない。
規律はガバガバ、会議はグダグダ。
自転車刑事チャリデカ。
チーム箱学の活躍は今日もつづく!
おしまい