チャリデカ1《八百屋お七編》 (短編3頁)
福富は金城と巻島に呼ばれ、課長室で定例報告をしている。
巻「クハッ。今月もチーム箱学が検挙数トップかよ」
金「さすがだな、福富」
福「当然だ。オレは最強のチームを作り上げた」
金城の机の角に腰掛けている巻島は、書類から顔を上げ福富に向かって言った。
巻「つーかさぁ。おたく、なんでいつもそう偉そうに座んの?一応オレ達おたくの上司っショ。いつまでも同期じゃないんだけどねぇ」
腕を組み、大股を開き、ふんぞり反って椅子に座っている福富を見て、巻島は首を横に振る。
嘆きの巻島と対象的に、金城は福富に微笑みかける。
金「福富……。オマエ程の男が出世の道を蹴り、現場に居たいと言い出した時は驚いた。その後チーム箱学を結成した時は……オレは正直ワクワクしたよ」
金城は当時を思い出しながら語る。
巻「ロードレーサーだけを集めたチームな。都会はチャリの方が機動性に優れ、ガソリン代もかからず場所も取らない。カナダの騎馬警官みたいっショ。エコだし、誰もがいいアイディアだと絶賛してたよなぁ」
福「オレが描いた通りの結果を出している。何か問題でも?」
バンッ!
巻島は金城の机に会計報告書を叩き付けて声を荒らげた。
巻「なにがエコっショ!支給品のチャリじゃ嫌だって全員外国製の高級ロードバイク!維持管理費どんだけ高いと思ってるっショ!」
巻島は玉虫色の長髪を振り乱し気味に興奮している。
巻「特におたくの荒北!毎回毎回犯人に体当たりしてチャリ壊すっショ!修理が大変だって資材部の寒咲先輩が嘆いてたっショ!」
福「犯人確保に必要なアタックだ。何も問題はない」
福富は巻島に怒鳴られても微動だにしない。
巻「それから!」
巻島は今度は別の資料を持ち出してきた。
巻「おたくら確かに検挙数はトップだが!」
資料のグラフを指して説明する。
巻「再犯率が異常に高いんだよ!どーゆーことっショこれ!」
金「チーム箱学に確保された犯罪者達は、ほとんどがまた確保されたがって再び罪を犯す……。確かに異常な再犯率だ」
福「特にうちの新開に確保された女は、必ずまた万引きを繰り返す。あいつがパトロールでスーパーや雑貨屋の前を通るとタイミングを見計らったようにいつも万引き犯の女が飛び出して来るそうだ」
巻「刑事が万引き犯確保とかパトロールとか、突っ込みどころだらけっショ!」
福「新開を筆頭に、他のメンバーも同じ現象が多発している。なぜか荒北だけは対象が男ばかりだが……」
巻「他人事のように語るなっショ!検挙数多くても再犯率高かったら全く意味ないっショ!」
福「更正はオレ達の仕事ではない。言い掛かりはよしてもらおう」
巻「検挙数上げるために犯罪者とグルになってるって噂まで出てきてるっショ!」
福「オレ達は全員がエースだ」
巻「なんのエースっショ!女ったらし、男ったらしのエースかよ!」
金「まるで八百屋お七だな……」
金城がボソッと呟いたので、声を張り上げ息を切らせていた巻島はやっと一呼吸置いた。
巻「八百屋お七って……あの昔話の?」
金「火事の時に避難先の寺でイケメン僧と出会ったお七が、どうしても再び会いたくて放火する……そんな話だったな確か」
福「物語は悲劇で終わる。お七は処刑されるんだ」
巻「再犯ダメ絶対!ってことっショ。福富、何か対策法を考えとくんだな」
福「オレ達はただ目の前の犯罪を取り締まっているだけだ」
巻「口答えするなっショー!」
巻島の説教も福富には全く暖簾に腕押しだった──。