独り言 (短編3頁)
「……こんな話すんのはさ。この前、見ちまったからなんだ」
え?
何を?
「おめさんが取り寄せた大学入試のパンフレット。チャリ部のある大学やら色々何冊もあったけどさ。その中に……」
あ。
もしかして……。
「……防衛大学」
やっぱり。
ちっ。
バレてたのか。
「靖友……自衛隊入るつもりなのか?しかも空自」
……。
「ははっ!戦闘機のパイロットなんてさ!おめさんらしいよな!スピード狂の頂点だよ!」
新開……。
「しかも日本を守るんだ!イカスよ!カッコイイよ!」
……。
「……そんなとこ入っちゃったらさ、もう、会えないじゃねぇか……」
…………。
「おめさんのことだから、入る前にきっとオレと別れるつもりなんだろ。“オメーが安心してチャリ乗れる日本を作るためなんだ”とか言ってさ」
……ちっ。
コイツ、オレのこと理解し過ぎだ。
厄介だな。
「自衛隊なんて男ばっかりの中におめさんを一人で放り込むなんて、オレが認めると思ってんのか?」
……懸念はソコかよ……。
「靖友。オレをあんまり見縊るなよ。もう選挙権だってあるんだぜ。日本のこと、ちゃんと知ってるんだ」
オマエ……!
「おめさんだけを命の危険にさらして、のほほんとチャリ乗ってられるかよ。ふざけんな。靖友。おめさんのいないチャリなんか、オレには何の意味もねぇんだよ」
……。
「……てことで、オレも一緒に入るから。防衛大学」
え?
……ええっ?
「もう色々調べたんだ。そしたらさ、あるじゃないか。防衛大学の中にも自転車競技部ってのが!」
ヤベェ!
コイツ、そこまで!
「だったら何も心配することないよな。ははっ。靖友と一緒にエースパイロットかぁ。楽しそうだなぁ。オレだってスピード狂って点ではおめさんに負けてねぇんだからな。オレ達、きっと息の合った曲芸出来るぜ!」
曲芸ってオマエ……。
「戦闘機にも色々あるんだよな。オレは艦上戦闘機がいいな。時代は空母だぜやっぱ」
ウキウキしてやがる……。
まだ防衛大学行くとは決めてねェんだがなァ。
だけど、コイツがその気になってんなら、一緒に入るのも悪くはねェ……かな。
「……ってさ、こういう話をおめさんの風邪が治ったらしようと思ってんだ。おめさんが眠ってたおかげで、いい予行練習になったよ」
……全部聞いちゃったけどな。
「ああ、さすがにおめさんの妊娠話の部分はカットするけどさ」
当たりめェだバァカ。
「……さて、これ以上いても仕方ねぇし、授業出るわ。かったりぃけどな」
おぅ、そうしてくれ。
「たっぷり眠って、早く元気になるんだぜ。おめさんの顔が見れねぇと寂しくてたまんねぇ。……愛してる」
新開はオレに口づけをして、部屋を出て行った。
……オメーの本音、とくと聞かせてもらったよ。
おかげでオレも、腹ァ決めたわ。
新開……。
オレもオメーと離れたくねェ。
オレぁすぐにオメーに遠慮して身を引いちまう癖がある。
だけど、これからはまず、オメーと離れずに済むにはどうしたらいいか、それを最優先に物事を考える癖をつけるよ。
今後もずっとオメーと一緒に年齢を重ねていきてェ。
いろんな困難にぶつかるだろうけど、二人一緒ならきっと、何でも乗り越えられるよな。
新開……オレも愛してンぜ。
……そうだ。
今度、腹に枕でも入れて驚かせてやっか。
へへっ。
あァ、ホッとしたらやっと眠たくなってきた……。
おやすみィ……。
おしまい