独り言 (短編3頁)
久しぶりに風邪をひいてオレは寮の部屋で寝込んでいる。
トイレで一度吐いた。
熱もある。
全身の関節がギシギシ痛む。
こりゃ2、3日安静だなァ。
まァ、寝てりゃ治っから楽なモンだ。
あ~、身体がだりィ。
動くのも億劫。
話すのも億劫。
目を開けることすら億劫。
眠りゃあいいのに、意外と眠れねェ……。
ガチャ。
誰か来た。
平日昼間だからみんな授業中の筈だ。
先生かな?
寮母さんかな?
「靖友」
新開?
オメ、授業は?
サボったのかよバァカ。
説教してやりてェが、気力がねェ。
「眠ってるのか……」
起きてンよ。
ガタガタと椅子を持ってくる音がする。
新開の手の平がオレのオデコに。
「まだ熱あるな」
心配してくれンのはありがてェけどヨ、移ったらいけねェだろ。
もう行けよ。
「ちょっと、すごく気になってさ」
なにがァ?
「オレ思ったんだけどさ。おめさん、これ風邪じゃなくて」
え?
オレなんか悪い病気?
「……妊娠じゃね?」
……。
「吐いたって聞いたしさ」
…………。
「考えてたらいてもたってもいられなくて授業どころじゃねぇよ」
……あァ殴りてェ。
顎に一発。
腹に一発。
だけど動けねェ。
「靖友……オレ、ちゃんと責任とるからな。逃げたりしない。安心しろよ」
あァ殺してェ!
誰かこのバカを殺してくれ!
「あとで妊娠判定薬買ってくるから。けど、やっぱり病院で診てもらった方が確実だよな」
ばっ……!
ンなもん買ってんの誰かに見られたら!
「寿一にはさ、報告しといた方がいいと思うんだ。驚くだろうけど、大丈夫。理解してくれるさ」
やめてェ!
それだけはやめてェ!
「お腹が目立たないうちに式挙げような。出来ちゃった婚だけど、学生だし仕方ないよな。でも結婚出来る歳で良かったよホント」
話がどんどん進んでいくゥ!
なんかオレ本当に妊娠してンじゃねェかって気になってきた……。
「熱下がったらさ、週末に靖友んち行って挨拶するよ。息子さんをください!って。ああ、緊張するなぁ」
親に挨拶……。
目眩がしてきた。
熱も上がってきた気がする。
「なぁ靖友。オレさ、子供の名前考えたんだ」
早っ!
いくらなんでも早過ぎじゃね?
「男の子だったらサーヴェロ。女の子だったらビアンキ。どう?」
DQNネーム!!
嫌だ!
そんなキラキラした名前ぜってー嫌だァ!
オレぁ世の3大許せねェ事のひとつがDQNネームなんだァ!
DQNネーム付ける親にだけはなりたくねんだァ!
「靖友。まさか風邪薬飲んだりしてないだろうな。ダメだぜ妊娠中は」
……ヤべェ。
さっき飲んじゃった。
いやいやいや!
イイんだよ!
飲んでイイんだよ!
「あんまり母体が若いと流産の確率が高いそうだからさ、安静にしてくれよ。何でもオレがやるからさ」
そりゃドーモぉ……。
「出産って命懸けなんだってな。今から言っとくけど、母体と子供、どっちを助けるかって迫られたら、オレは靖友を選ぶからな。それははっきり言っておく」
……新開……。
「おめさんは、なんで子供を選ばなかったって怒るかもしれねぇけど、オレは絶対おめさんを選ぶから。オレはそういう考えだから。……ああ、こういう話、ちゃんと真面目に話し合って書面にするとかしといた方がいいよな」
……バカだよなァ、こいつホントに……。
だけどさァ、オレに対する気持ちが真剣だってのァひしひしと伝わってくンだ……。
オレはコイツのこういうトコが……愛しいンだよな。
チクショウ。
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