ハコガクデート (中編6頁)
泉「えっ?新開さんがフられた!?」
週明けの部室では、その話題で持ちきりだった。
新「靖友……靖友ぉ……」
新開は机に突っ伏してずっと泣いている。
泉「ラブホまで行ったのにフられるって……あのあと一体何があったんです?」
黒「ア、アンタまさかとんでもない鬼畜プレイを……」
黒田は怒りでワナワナと全身を震わせる。
新「鬼畜プレイどころか……何にもさせてもらえなかった……」
泉「ええ?」
新「服脱がせてたら急に『なんか、冷めた。もういいわ』って、部屋出て行っ……うわぁぁ」
泉「冷めたって……。つまり、もう恋人探しは終了ってことですか?」
黒「それって……それってアンタ……」
黒田は新開の胸ぐらを掴む。
黒「荒北さんを恋愛不信にさせたってことじゃないスか!」
新「うわあぁぁ~!靖友ぉ~!何がいけなかったんだよおぉ~!」
新開は泣き叫ぶ。
黒「なんてことだ!アンタそれどういうことかわかってんスか!“戦犯”っスよ!戦犯!」
新「すまねぇ~!すまねぇ~!ううう~!」
泉「箱根の直線にさ……戦犯の鬼が出るって噂、知ってるかい……」
新「うわぁぁ~!泉田まで傷口に塩塗るのかぁぁ!」
新開は激しく泣き崩れる。
真「荒北さん!」
真波が荒北に近付く。
真「次、オレの番ですよね!オレと付き合って下さい!」
荒「真波……悪りィ。オレもう当分色恋は興味ねェんだ。他あたってくれ」
真「そんな……」
立ち去ろうとする荒北に、真波は後ろから飛び付いて押し倒した。
部員達が驚いて集まって来る。
荒「ぅオイ!真波!」
真「じゃあせめて挿れさせて下さい!」
荒「挿れるって何を!?」
真「先っちょだけでもいいんです!先っちょだけでも!」
真波は荒北のズボンの上からスコスコし始める。
荒「ぎゃーーーっ!!」
黒「何やってんだ真波テメェ!!」
黒田がすっ飛んで来て真波を引っ剥がす。
ガラッ!
そこへ東堂が乱暴に部室の扉を開けて入って来るなり怒鳴った。
東「誰だ!オレと巻ちゃんが峠でデートしてるなどとデマを流したのは!」
黒「真波です!」
泉「真波です!」
東堂はツカツカと真波に歩み寄り、首を締める。
東「巻ちゃんから珍しくメールが来ていると思ったら“絶縁状”と書いてあったのだよ真波」
真「ぐえーっ」
東「総北で妙な噂が広まっていると苦情が来た」
真「ご、ごめんなさい東堂さん……」
東「二人の勝負が擬似セックスだと?貴様意味わかって言っておるのかぁ!」
真「ぐえぇぇ」
泉「と、東堂さん……」
白目をむく真波にさすがに同情して、泉田が止めに入った。
騒がしい部室を出て、荒北は自転車に乗って逃げ出した。
湖の畔を流していると、前方を走っている自転車を見付ける。
荒「福ちゃん!」
荒北は福富に追い付き、並走する。
福「今日は風が心地好い」
荒「あァ、最高だな。……なァ、福ちゃん」
福「ム?」
荒北は福富に質問する。
荒「福ちゃんは恋したことあるゥ?」
福「恋?……フッ。恋ならいつもしている」
荒「えェ?誰と?」
意外な返答に驚く荒北。
福「オレの恋人は、昔も今も、自転車だけだ」
荒「福ちゃん……ブレないよなァ福ちゃんは。癒されるよホント」
福「自転車は裏切らない。嘘をつかない。そして……想いに応えてくれる」
荒「その通りだ福ちゃん。オレも見習うよ」
自分にはまだ恋など早かったのだ。
荒北は福富と話してそう確信した。
脇目も振らず、自転車に集中しよう。
今回の騒動はすべて荒北の発した一言から始まり、何人もの部員を不幸にしたのだが、そんな自覚は全く無く、荒北は一歩前へ進んだ気がした ──。
おしまい