ハコガクデート (中編6頁)





荒「あ~ァ、恋人欲しいなァ」

「「「!!」」」

 

 

 

おもむろにボソッと呟いた荒北の発言。

部室内に一気に緊張が走った。

 

 

 

泉「聞いたかユキ!今の!」

黒「オレが荒北さんの発言聞き逃すワケねーだろ!聞こえたよ!」

 

後輩達が色めき立ちざわざわし出す。

 

荒北は一体どういうつもりでそんな発言を?

ここは突っ込むところなのか?

どう返答すれば正解か?

 

後輩達は皆顔を見合せて動揺している。

 

 

 

新「じゃあ、オレと付き合おうぜ靖友」

 

新開がパワーバーをくわえたまま荒北の隣に座った。

 

新開のそのあまりに自然な言動に、後輩達は口をアングリと開けたまま固まった。

 

 

泉「早っ!新開さん早っ!さすがエーススプリンター!」

黒「男でも良かったのか!しまった、出遅れた!」

 

黒田は悔しそうにダン!と両拳を机に叩きつける。

 

 

 

荒「エ?オメーと付き合うの?オレ」

新「そうさ」

 

新開は荒北の肩に手を回す。

 

 

泉「もう恋人気取りだ!さすが新開さん!」

黒「ぐぐぐ……」

 

 

真「はい!荒北さん!オレも!オレも荒北さんと付き合いたいです!」

 

そこへ真波が手を挙げて発言した。

 

黒「真波?しまった!真波にも先を越された!何やってんだオレ!」

 

困惑する黒田。

 

 

新「悪いな、真波。こういうのは早い者勝ちなんだ。けど、エントリーは自由だよ。オレが靖友にフられたら権利が発生する。オレがフられたら、だけどな」

 

真「それでもいいです。待ってますオレ」

 

真波は素直に従う。

 

泉「アブッ。いつの間にか新開さんが当然のように仕切ってる。上に立つ者は違うなやっぱり。勉強になるなぁ」

 

泉田はなにやらメモっている。

 

 

 

新「靖友、明日早速映画行こうぜ」

荒「映画ねェ……」

 

新開は荒北の肩を抱いて、後輩達に見せ付けるようにデートの約束を取り付ける。

 

黒田は、そんな二人の様子をただ恨めしそうに眺めているだけだった……。

 

 

 

 

泉「ユキ、エントリーしなくていいのか?」

黒「ばっ!ばっきゃろ!そんなことしたら荒北さんにオレの気持ちバレちまうじゃねーか!」

 

黒田は真っ赤になって答える。

 

泉「何を今更。バレバレじゃないか」

黒「本人にはバレてねんだよ!意外とそういう方面は鈍いからあの人。それより塔一郎、オマエは新開さんを荒北さんに取られてもいいのか?」

 

泉「オレは別に新開さんに恋してるワケじゃないよ。新開さんに対しては、憧れというか、ファンというか……そうだな、“追っかけ”が一番近い表現かな」

黒「ふーん」

 

 

真「黒田さんは参戦しないんですか?」

 

真波が話に入ってくる。

 

黒「オレは……。そりゃオレだって……」

泉「ユキは普段自信満々なくせに、荒北さんのことになるとてんで臆病になるな」

黒「う……。真波の積極性が正直羨ましいよ」

 

真波は笑顔で語り出す。

 

真「オレは、別に荒北さんが新開さんと付き合おうが黒田さんと付き合おうが全然構わないですよ。ただ、オレとも付き合って欲しい。それだけです」

 

泉田と黒田はそれを聞いて驚く。

 

黒「変わってんなオマエ。やっぱり不思議ちゃんだな」

泉「荒北さんを独占したいって思わないのか?」

 

真「独占……。だってオレ、そんな資格ないし」

黒「資格?」

 

真「新開さんは、チャリの実力者だしカッコイイし、荒北さんとつり合うから誰も文句言えないです。だけど、オレは……登りも中途半端だし、年下だし、つり合わないから2番手3番手でいいんです」

黒「オマエ、そんな……」

 

真波は涙をポロポロこぼし始めた。

 

黒「お、おい真波。泣くなよ。参ったな」

泉「真波はまだ子供なんだよ恋愛に関しては。荒北さんに対する気持ちも本当に恋なのかまだはっきりしてないんじゃないか?」

 

黒田と泉田は真波の肩に手を置いて慰める。

 

 

真「でもオレ、荒北さんに挿れたいって思います。挿れたいなんて思う相手、荒北さんだけです。これって恋ですよね?」

 

黒「挿れ……オマエ!なんて直接的な!」

 

黒田は赤面して戸惑う。

 

泉「うーん。そりゃ間違いなく恋だ。正直過ぎて問題だがな」

 

泉田も真波の対処に当惑する。

 

 

 

泉「ユキも真波も、荒北さんを本気で好きなのはよくわかったよ。今回は新開さんが一番乗りしたってだけで、まだ荒北さんは恋人にすると決めたわけじゃない。そこでだ……」

 

泉田は黒田と真波に向かって提案する。

 

 

泉「明日のデートにオレ達もついて行こう。二人の仲が成立するのかどうか、証人として見届けるんだ」
 












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