ハコガク野球大会 (長編10頁)★オススメ
“乱闘は全員参加”ってルール(注:公式ではない)は、チームメイトの友情で生まれたわけじゃねェ。
連帯責任にすることにより、退場者を出さねェようにする苦肉の策なんだ。
泉田の機転(?)のおかげで誰も退場処分にならず、試合は続行された。
1回表(自転車部の攻撃)
自転車部 0
サッカー部0
2アウト
ランナー1塁(福ちゃん)
「さっきの乱闘がいいウォームアップになりましたわ」
4番バッター銅橋が頼もしくバットを振り回す。
「デッドボール出した後ってのァ慎重になっからド真ん中が来やすい。銅橋、教えた通り落ち着いていけ」
「任せて下さい!」
サッカー部主将の鼻には絆創膏がもう一枚増えていた。
「くそ……チャリなんてマイナースポーツのくせに生意気な!」
「チャー、シュー、メーン!」
カキーン!!
「デカイ!行ったぞこりゃア!」
チャリ部のベンチはみんな立ち上がった。
打球は左中間へグングン伸びて……!
「入ったアー!!」
「おおーー!」
みんな優勝したかのように抱き合って喜んでらァ。
「荒北先輩!今のは?」
「あァ、ホームランだ!銅橋!こっち来なくてイイからァ!ゆっくり一周してこい!ベースを4つちゃんと踏むのを忘れンなァ!」
「はい!」
ホームベース近くでオレ達は並び、帰って来た福ちゃんと銅橋をハイタッチで迎えた。
次の5番泉田はセンターフライに倒れ、チェンジとなった。
しかし初回に2点も取れるとは、いい出だしだ。
1回裏(サッカー部の攻撃)
自転車部 2
サッカー部0
カキーン!
打たれた。
しかしセカンドゴロ。
新開がさばいて……。
「あ」
「トンネルしてんじゃねー!」
オレは慌てて拾い、1塁へ送球する。
「アウト!」
ふゥ、危ねェ。
万一を考えてカバーに入っといて良かった。
……しかし、うちの守備は酷いもので、さすがのオレも全てはカバーしきれねェ。
みんなとにかくゴロが捕れねェ。
フライも捕れねェ。
捕れても送球がスッポ抜ける。
何塁に投げればいいのか判断出来ねェ。
黒田は速球タイプじゃねーし、打たせて捕るにも守備がこれじゃあ……。
結局2点取られて同点。
ふりだしに戻っちまった……。
2回表(自転車部の攻撃)
自転車部 2
サッカー部2
6番の葦木場はサードゴロに倒れ、1アウト、ランナー無し。
次は7番、新開だ。
「お得意のバキュンポーズはしないのか?」
サッカー部主将が挑発する。
「するさ」
新開は右手を挙げ、親指と人差し指を立てて高く遠くを差した。
そして、ウィンクしながら「バキュン!」と言った。
「新開ィ!カッコつけなくていいからァ!しかも、解ってンのか!野球じゃそのポーズは……!」
「解ってるよ靖友。これはホームラン予告だ」
「!なにぃ!?」
サッカー部主将のこめかみに血管が浮き出る。
新開はヤツを睨み付けながら言った。
「“バキュンポーズをすると必ず敗北する”このジンクス、破らせてもらうよ。それに、キミに靖友は渡さない。売約済みなんでね」
「なっ……てことはお前……」
新開の奴、ホームラン予告なんて……いや待てよ、パワー的には問題ねェ筈だ。
「新開ィ!とにかくバットを最後まで振り抜けェ!」
「OK、靖友」
「なめやがって!」
「チャー、シュー、メーン!」
カキーン!!
いいぞ!
いや、低い!
「新開!走れェ!」
打球は伸びてるが、際どい!
ギリギリだ!
ライトは追い付くのを諦め、フェンスに跳ね返るのを待っている。
「入ったァーー!」
ギリギリのライナーでホームランとなった。
「すげぇ!」
「新開先輩!やったあ!」
ベンチは大歓声だ。
ガッツポーズをしながらダイヤモンドを回る新開をホームベースで待ち構え、オレは飛び付いた。
「愛してンぜ新開!今夜は大サービスしてやんよ!」
「ヒュウ!オレ今夜も眠らせてもらえねぇのか」