東堂式恋愛術 (中編8頁)





ハァハァ。

 

靖友はすばしっこい。

だけど絶対追い付いて捕まえてみせる。

そして、言うんだ、好きだって。

 

 

上履きのまま、寮の裏まで来ちまった。

だけど、いいぞ。

この先は袋小路だ。

 

いた!

靖友は袋小路に戸惑って塀をよじ登ろうとしている。

バカ。

登れるわけないだろ、その高さ。

 

 

「靖友!!」

 

捕まえた!

靖友の腕を掴んでこっちを向かせる。

 

 

「!!」

 

 

いつもつり上がっている靖友の眉が……ハの字に下がって……目に涙を浮かべている……!?

 

なんで?

 

 

「見ンな!」

 

顔を背ける靖友。

 

 

おめさん……。

「今まで通り自由にしろ」って。

「女子と付き合え」って。

「ヤキモチ妬いたりしない」って。

「自分の身の程はわきまえてる」って。

 

 

だったら……。

 

「だったらなんでそんな辛そうな顔してんだよ!!」

 

「っせ!離せ!」

 

離すもんか!

オレは靖友を抱き締めた。

 

 

「好きだ靖友!」

「!」

 

「オレ、わかったんだよ。おめさんがオレの運命の人だって。男同士だろうと構わない。好きなんだ!好きで好きでたまらない!」

「新開……」

 

「もう、おめさんを泣かせたりしないから。辛い思いさせたりしない。女子に告られても、好きな人いるからって全部断るからな」

「……」

 

オレは靖友の頭を掴んで、唇を重ねた。

 

「ん……!」

 

 

靖友の唇……柔らかい。

すごい気持ちイイ。

 

オレのファーストキス。

まさか男とするとは思わなかった。

だけど構わない。

一生キスは靖友としかしない。

誰にも靖友を渡さない。

絶対離さない。

靖友……。

オレはもうおめさんに夢中だ。

 

ああ……。

舌入れたくなってきた。

怒るかな靖友。

怒らないよな。

だってオレ達はもう、両想いなんだから……。

 

 

 

バキィッ!!

 

「!」

 

ズシャーーッ!

 

 

 

えっ?

 

殴られた?

 

なんでオレ、殴られて地面に倒れてんの?

 

まだ……まだ舌入れてないのに!

これから入れようと思ってたのに!

 

 

 

「オレに触んな!ボケナスがァ!!」

 

 

は?

 

 

「オメーとはもう終わりだァ新開!」

 

 

え?

 

なに?

どゆこと?

 

 

「言ったろうがァ!付き合うつもりねェって!」

 

いや、言ったけど、それは……。

 

 

「オレぁなァ……」

 

靖友はオレを見下ろして言う。

 

 

 

「追いかけンのが好きなんだ。振り向かれたら、その時点で冷めンだよ」

 

 

 

……えっ?

……ええっ!?

 

 

 

「だから忘れろって言ったのになァ。もっと永く楽しみたかったぜ。落ちンの早過ぎだろーが。オメーにはガッカリしたぜ新開チャン」

 

 

そ……そんな!

そんなバカな!

今さら……!

 

 

こんなにおめさんのこと好きにさせといて、そんな……。

 

 

「や、靖友……嘘だろ?嘘だよな……?」

 

オレは靖友の足を掴んですがるように言う。

 

 

「嘘じゃねーよ。手ェ離しな」

 

「好きなんだ靖友。好きだ好きだ好きだ!」

 

体面も考えず見苦しくオレは靖友の足にしがみつく。

 

 

「もう終わったんだよ新開。別々の道を歩もうぜ」

 

「嫌だ!終わりなんて嫌だ!別れたくない!靖友!頼むよ!」

 

「始まってもいねーのに、別れるもクソもねーだろバァカ」

 

ガッ!

 

靖友はオレを蹴り飛ばして立ち去って行く。

 

 

 

「靖友!靖友おぉぉーー!!」
















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