東堂式恋愛術 (中編8頁)





オレは……好きになっちまったんだろうか。

靖友を。

 

過剰に意識しているのは明白だ。

 

オレが靖友に恋を……。

 

 

いや!

いやいやいや待て!

待て隼人!

結論を出すのはまだ早い!

 

混乱してるだけだ!

一時的な気の迷いってやつだ!

数日たてば、きっとおさまる。

この胸の高鳴りも。

 

考えてもみろ。

リスクが高過ぎる。

道を踏み外すな。

 

靖友だって言ってたじゃないか。

「付き合うつもりはない」って。

 

靖友はちゃんと解ってるんだ。

男同士でそんなことになっちゃいけないって。

だから、気持ちは打ち明けたけど、そこまでで踏み留まったんだ。

靖友はちゃんと理性が働いたんだ。

だから「忘れろ」って。

「二度と蒸し返さない」って。

 

だから。

だからオレも靖友の言う通り、忘れなきゃいけない。

一時の感情に流されて、二人で地獄に堕ちちゃいけないんだ。

 

 

……そうだ。

それが結論だ。

 

何日かかるかわからないけど、忘れるんだ、この感情を……。

 

 

 

 

今日も一日中、全く授業が頭に入らなかった。

 

オレは放課後、部室に向かうため階段を降りている。

今朝は初めて朝練をサボってしまった。

こんなことじゃいけない。

今から思いっきりペダルを回して何もかも吹っ切ろう。

 

 

「新開くん……」

 

呼ばれて振り向くと、見知らぬ女子がモジモジしていた。

 

 

 

その女子が告白を始めた。

 

オレは機械的にカシャカシャといつものシミュレーションを頭の中で始める。

 

……待てよ。

この娘と付き合えば、靖友を早く忘れることが……?

 

バカ!

オレはなんてことを!

 

そんなことのためにこの娘を利用するのか!

鬼かオレは!

いや、鬼だっけ。

そんな独り漫才はどうでもいい!

 

 

……告白の内容が全く頭に入ってこない。

右の耳から左の耳へ抜けて行く。

 

靖友……。

頭の中は靖友でいっぱいだ。

どんどん重症化していく。

どうしよう。

どうしたらいい。

 

 

 

「……ぅおっとォ!」

 

誰かが通りかかっ……靖友!!

 

靖友だ!!

 

 

なんて間の悪い!

こんな場面を靖友に見られちまった!

オレは凍りついた。

 

 

「……」

 

靖友はオレと女子を交互に見て、一瞬固まった。

 

 

「わ、悪りィ」

 

クルッと向きを変え、走り去る靖友。

 

靖友!!

 

オレは思わず靖友を追いかけ……

 

「新開くん!」

 

女子に叫ばれて足が止まった。

オレは……。

 

 

 

「ごめん。オレ好きな人がいるんだ」

 

「ええ~?」

 

初めて言った断りのパターンだった。

 

 

オレは全速力で靖友を追いかけた。

 

 

 

 

オレは走りながら、カシャカシャとシミュレーションしていた。

靖友とのことを。

 

 

互いに尊敬出来るか……クリア!

信頼し合えるか……クリア!

高め合えるか……クリア!

ドキドキときめくか……クリア!

四六時中相手のことが頭から離れないか……クリア!

チャリのことも忘れるぐらい……初めて朝練サボった、クリア!!

 

 

オールクリア!!

初めてだ!

 

 

靖友!

おめさんは、おめさんはオレの……運命の人じゃないか!!

 

 

リスク?

構わない!

道を踏み外す?

望むところだ!

地獄に堕ちる?

バッチ来ーい!!

 

 

靖友!!

 

 

好きだ靖友!!











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