東堂式恋愛術 (中編8頁)





……一睡も出来なかった。

ずっと靖友のことばかり考えてた。

 

オレは机に突っ伏して目を閉じている。

 

 

ガラッ。

 

「福ちゃん!」

 

ドキッ!!

 

靖友だ!

靖友が来た!

 

 

「英語の教科書貸してェ。部屋に置いてきちまった」

「またか」

 

ドキドキ……。

すぐ近くで靖友と寿一が会話してる。

 

 

「荒北。新開をなんとかしてくれ。1限目からずっと眠ったままなんだ」

 

じゅっ!寿一!

余計なことを!

 

 

スパーーン!!

 

「このダメ4番がァ!」

「いでぇ!!」

 

靖友に英語の教科書で叩かれた。

思わず顔を上げてしまい、靖友と目が合ってしまった。

 

ドキン……!

 

オレは靖友の顔を凝視したまま固まっている。

 

 

「……なンだよ」

「あ、いや……痛かっ、た……」

 

オレはボソボソと言った。

 

 

「目ぇ覚めたろ?」

 

靖友はニヤリと笑い、教室を出て行った。

その後ろ姿をずっと目で追う。

 

 

 

……おめさんはゆうべ眠れたのかよ。

勝手に言いたいことだけ言って、スッキリかよ。

オレは……。

 

 

 

 

 

 

女子に告られた時、オレはこれでも一応その娘とのことを真剣に考えるんだ。

 

勇気を出して告ってくれたんだ。

こっちだって誠意をもって返答するのが礼儀だろ?

 

ただ、真剣に考えた上で、付き合ってもいいかなって思える娘にはいまだにめぐり会えないだけだ。

 

お試しとか、人恋しいからとか、ヤりたいからとか、そんな短絡的な理由で誰かと付き合うつもりはない。

そんな関係は時間の無駄だし、どっちも不幸だ。

 

 

……オレだって、恋をしたいとは思ってる。

ドキドキときめいて、四六時中相手のことが頭から離れなくて、チャリのことも忘れるぐらいの……そんな相手と出逢うことが出来たら。

 

顔や体型なんか気にしない。

大切なのは心だ。

互いに尊敬出来て、信頼し合え、高め合う。

 

……これ、何も難しい条件じゃないよな。

当然のこと言ってるよな。

 

 

それを、目の前で告られている間に頭の中でカシャカシャとシミュレーションする。

1分ぐらいかな。

 

で、結論を出して、

「ごめんな。悪いけどキミとは付き合えない。でも告白してくれたことは嬉しかったよ。ありがとう」

って毎回同じセリフを言うんだ。

 

それで終わり。

しまった!もうちょっとよく考えりゃ良かった!

なんて後悔したことは一度もない。

いつまでも相手のことが頭から離れないなんてこともない。

 

 

 

だから!

 

だから今回のことは自分でも困惑してるんだ!

 

このオレが!

 

告ってきた相手のことを考えて眠れないなんてことが!

 

翌日まで持ち越して!

声を聞いただけで動揺して!

目が合って固まって!

後ろ姿を目で追って!

 

こんなケースは初めてだ!

 

 

相手が男だから。

イレギュラーだから当然……。

いや、そんなことはない。

 

 

仮に、クラスメイトの男子の誰かがオレに告ってきたとシミュレーションしよう。

「ごめん。オレそのケ無いから」

即答だ!

ほら即答だ!

 

よし。

じゃあ、あんまり考えたくないけど寿一に告られたとシミュレーションしよう。

「気持ちは嬉しいけど、ごめんな、オレ無理だ」

ほら!

寿一でも即答だ!

 

ゼェゼェ……。

このシミュレーション、すげぇ体力消耗するな。

 

 

 

……それなのに。

 

靖友……。

 

なぜオレは即答出来なかった……?

 

なぜなんだ……?














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