東堂式恋愛術 (中編8頁)
「え……?ごめん。もう一度言ってくれる?」
「だからァ。……オメーが好きだっつったの。惚れちまったって」
……靖……友に告られた?
消灯間近に部屋にやってきてモジモジして、なんだろうと思ったら……。
靖友が、靖友が……オレを、好き?
あれ?
男……だよな、オレ。
「だけどォ」
だけど?
「別に付き合ってほしいワケじゃねーから。ただ、打ち明けたかっただけだァ。モヤモヤしてんの嫌だからな。あースッキリしたァ」
靖友はやたら晴れ晴れとした表情でそう言った。
いや、おめさんはスッキリしたかもしんねぇが……。
「返事もいらねーから」
えっ。
「オレのことは気にしねーで、オメーは今まで通り自由にしてくれ。女子と付き合うのもいいし。別にヤキモチ妬いたりしねーよ。自分の身の程はわきまえてるつもりだァ」
靖友……。
「ま、要は今オレが告ったことは忘れてくれってこった」
忘れるなんて……。
「オメーは男に告られたからって、オレのことキモイとか思ったりしねー奴だろ?」
「そんなこと思わないよ」
それは即答した。
靖友をキモイなんて思うわけがない。
「ん。じゃ、オレとも今まで通りイイ仲間として接してくれな」
「靖友……」
靖友はニカッと笑って言った。
「この話は、これで終わりだァ。二度と蒸し返さねーから安心してくれ。じゃな。おやすみィ」
「ちょ……」
靖友は自分の言い分だけ言い放って部屋を出て行ってしまった。
ぐしゃっ。
あ、食べかけのパワーバーを足で踏んじまった。
さっき靖友に告られた瞬間、口から落ちたことに気付かなかったんだ。
……。
…………。
衝撃だな。
男に告られるとは。
しかも相手は靖友だ。
いつからなんだろう。
モヤモヤしてるの嫌だからって言ってたってことは、最近ってことだよな。
……いや、こんなこと考えてどうするんだ。
靖友は、付き合うつもりはないって。
返事もいらないって。
忘れてくれって。
蒸し返さないって。
今まで通り仲間でって。
……男同士なんて成就するわけがない。
オレ、ホモじゃないし。
改めてnoの返事したところでわざわざ靖友を傷付けるだけだ。
靖友もわかってるからああ言ったんだ。
靖友は……昔からホモなんだろうか。
全くそんな感じしなかったけど。
それともオレが最初……?
ううう。
ショックが大き過ぎる。
こんな衝撃は初めてだ。
ぐしゃっ。
あ、さっきのパワーバー、まだ拾ってなかったのか。
ああもう靴下がベタベタだよー。
床もベタベタだよー。
フッ。
消灯だ。
あーもー。
真っ暗でゴミ箱が見えないよー。
もーー。