東堂式恋愛術 (中編8頁)





「折り入って頼みたいこととはなんだ荒北。珍しいではないか」

 

東堂の部屋で、荒北はおとなしくしている。

 

「これはオメーにしか頼れねんだァ」

 

「フハハハ。貴様がオレに頭を垂れるとはな。実にいい眺めだ。苦しくないぞ。さあ、言ってみるがいい」

 

 

 

荒北は要件を話した。

 

 

 

「ほう!貴様が恋愛相談とはな!しっかり青春しているではないか!ワッハッハ」

「なんとか指南してくれヨ」

 

 

「しかし……」

「なンだよ」

 

東堂は少し引っ掛かる。

 

 

 

「……こういうことは、オマエだったらオレよりも隼人に相談するんじゃないのか?なぜオレを頼る?隼人が断るとは思えんが」

 

荒北はギクッとするが、極力表情に出さないよう注意する。

 

「し、新開じゃダメだ。ニセモノだ。オレはオメーの方がモテると実は前から思ってたんだァ」

 

おだてる荒北。

 

 

「ほう!そうか!貴様わかっているではないか!ウワッハッハッハ」

 

東堂はどうやら気分良くしてくれたようだ。

 

「貴様がこれほど可愛い奴だったとはな。いいだろう。オレが取って置きの秘技を伝授してやろう!」

「東堂さまァ」

 

 

 

 

荒北はそれから延々と東堂のウンチクを聞かされることになるが、想定していたので我慢して聞いた。

 

要点をまとめると、以下の3つだった。

 

 

・押す

・引く

・突き放す

 

 

「……“押す”“引く”はなんとなく解るけどヨ、なんだこの“突き放す”って。突き放しちゃダメだろーが」

 

素朴に突っ込む荒北。

 

東堂は両手を天に掲げ、派手に溜め息をついて首を横に振った。

 

「ああ!これだから素人は!」

 

荒北をビシッと指差して東堂は解説する。

 

「これが最大のポイントなのだよ!いいか荒北!恋愛とは!“主導権”だ!」

 

「主導権……」

 

荒北はポカンとしている。

 

 

「たとえこちらが先に好きになったとしても!相手の方が自分を追いかけるように仕向ける!それが重要だ!」

 

「……そんなことが可能なのかよ」

「可能だ!」

 

 

「オメーってただの前髪バカのクソ野郎だと思ってたけど、実はスゲーんだな」

 

荒北は素直に尊敬の眼差しで東堂を見る。

 

「くうっ!いいぞその目!もっとその目でオレを崇めるがいい!」

 

東堂は自分で自分を抱き締め、今にも果てそうな勢いだ。

 

 

「わかったヨ。オメーに教わった通り頑張ってみるわ。あんがとネェ」

 

「成功を祈る!結果はちゃんと報告するように!」

「あァ。もちろん」

 

 

荒北は部屋を出て行った。

 

 

 

「……さて」

 

東堂は閉められたドアを眺めながら言った。

 

 

 

「……すまん荒北。実は試したことは無いのだ。失敗したらちゃんと慰めてやるからな。頑張れよ」













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