キミを探して (短編2頁)





「ねぇ、キミ……」

「はい?」

 

オレは今夜も見知らぬ男に声を掛ける。

 

 

 

「オレに“バァカ”って言ってくれる?」

「はあ?」

 

瞬時、あからさまに警戒される。

当然だ。

 

 

 

「なんだこいつ。気持ち悪い。バーカ」

 

そそくさと行ってしまう。

 

 

違う。

“バーカ”じゃない。

“バァカ”なんだ。

 

 

 

 

……なにやってるんだオレ。

これじゃ変質者だ。

 

だけど、つい、探してしまう。

 

 

靖友に似た男を……。

 

 

靖友に背格好の似た、

靖友に後ろ姿の似た、

靖友に声の似た、

靖友に笑い方の似た……。

 

 

 

“バァカ”って言ってもらってどうする気だ。

 

もし、満足な返答だったとして、その後何をするつもりだ。

 

 

こんな繁華街で声掛けなんかするより、まだ出会い系サイトで条件を提示した方が効率いいし、少なくとも変質者扱いはされないだろう。

 

でも、それじゃなんか違う。

自分の目で見付けたいんだ。

 

 

 

……自分で何を言ってるのかわからなくなってきた。

 

オレ、相当病んでるんだろうな。

 

今まで何人に声を掛けただろう。

 

だけど、毎回振り向くと「ああ、やっぱり違う」って落胆する。

そりゃそうだ。

本人じゃないんだから。

 

ダメ押しで“バァカ”って言ってもらおうとするけど、結局一人も満足な男は見付からない。

 

 

 

……こんなこと続けてたら、

そのうちこの界隈でオレのこと噂になって、

「バァカ男」とか名前がついたりして、

チンピラにボコられて、

病院に搬送されて、

大学に知られて、

寿一に怒られて……

ははっ。

 

 

 

ヤメなきゃ。

こんなこと。

 

まだ引き返せる。

まだ今なら大丈夫だ。

まだ自我があるうちに。

 

 

 

本人に打ち明けることが出来たら、どんなに楽だろう。

だけど、そんなこと出来ればオレはこんなとこで病んでたりしねぇんだよ。

 

 

 

靖友に会いたい。

 

高校の時みたいに毎日顔が見れれば、こんなに想いが募ることはなかったのに。

いや、高校の時から募ってたか。

 

 

 

靖友に会いたい。

 

 

またオレと遊んでくれよ。

またオレに笑顔を見せてくれよ。

またオレにバァカって言ってくれよ。

 

 

 

なんで傍にいてくれねぇんだおめさんは。

 

 

オレがこんなに探してるのに。

オレがこんなに求めてるのに。

オレがこんなに好きなのに……。

 

 

 

 

……あ、似てる。

あの人。

後ろ姿。

ちょっと猫背気味で。

似てる。

待って。

似てる。

ねぇ、キミ……。












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