小さなキューピッド (長編10頁)
男でも痴漢に遭うと聞いたことはあったが、まさか自分が体験するとは思っていなかった。
ど、どうしよう。
ギュウギュウで身動きが取れない。
チラッと見上げる。
隼人くん、靖友くんと会話しててオレに全く気付いてない……。
だけど、痴漢に遭ってるなんて恥ずかしくて言えない。
尻をキュッと締めて前方に身をズラすが、数センチ程度しか逃げられず全く意味がない。
……さわさわ。
「~~!!」
尻全体を撫でられ、割れ目をなぞられる。
やめろ。
気持ち悪い。
その手を離せ。
早く駅に着いてくれ。
羞恥心。
恐怖。
怒り。
絶望。
悠人はパニックを起こしていた。
「ショタとはイイ趣味してんじゃナァイ。オッサン!」
「!!」
荒北が痴漢の腕を締め上げた。
周囲の乗客がざわめく。
「このオッサン、痴漢でーす!」
荒北は痴漢の手を掲げさせる。
「ハーイ、皆さん写メ写メ!」
荒北の掛け声で新開が先陣を切り写メを撮る。
すぐに周りの乗客達もパシャパシャ撮り出した。
「や、やめろ!やめてくれ!」
痴漢は慌てている。
駅に着き、扉が開くと荒北は痴漢を連行して降りて行った。
車内は拍手の嵐だった。
目的の駅のひとつ手前だったが、新開兄弟もホームに降りた。
悠人はショック状態でガクガク震えていた。
新開は悠人を抱き締める。
「怖かったろ。もう大丈夫だからな」
「う……」
悠人は泣き出した。
新開は悠人の頭を優しくなでる。
暫くすると荒北が戻ってきた。
「駅長室に放り込んだったゼ」
「靖友、ありがとうな」
泣いている悠人を見て、荒北は声を掛ける。
「悠人。こんな程度でトラウマになってんじゃねーぞ。男はなァ、家から一歩出たらもう戦場なんだ。この先もっともっと困難が待ち受けてんだぜェ」
「う……うん。ありが……」
「礼なんていらねェ。その代わり、これからまた誰か被害に遭ってる人を見掛けたら、同じように助けてやれ」
「うん……わかった」
悠人は涙を拭いた。
少し元気が出てきたようだ。
「なんなら、片手で相手の指の骨折るやり方教えてやんよ」
「教えて!」
「いや、靖友、それはさすがに……」
新開が慌てて制止する。
「だけど靖友、よく気付いたな」
「あァ?」
新開の問いに荒北は答える。
「そりゃな。オレも何度も被害に遭ってっからなァ」
「ええっ!」
「今じゃ空気で察知出来るように……」
「ちょっと待ってくれ!初耳なんだけど!」
「言ってどうするヨ」
「今度ゆっくり聞かせてもらうからな!」
「なに興奮してんだオマエ」
悠人は二人のやりとりを見て、笑顔になった。
「ね、もうスポーツ用品店はいいからさ、なんか甘いもの食べに行こうよ!」
「そうだな。そうしようか」
「おっ……オマエラまだ食う気かー!」
荒北は呆れ果てた。