小さなキューピッド (長編10頁)
「そうだ、まだだぜ。まだまだ……そこだ!」
「……やった!」
ガコンゴロン。
狙った景品が取出口から出てきた。
「すごい!本当に獲れた!」
「意外とやるじゃナァイ」
「ああ、たいしたもんだ悠人」
悠人は獲得した箱を嬉しそうに抱え、目をキラキラさせて眺めている。
「かなり筋がいいぜ悠人の奴。中学生の学習能力ってスゲーな。そら恐ろしいぜ全くよォ」
「まだまだ発展途上だからな。吸収力が半端ないんだよ。高校生になったらもっと身長も伸びるし体格も良くなる。オレ以上の逸材になると思ってるんだ」
「ああ。こりゃ楽しみだ」
新開と荒北は、悠人の能力に感心している。
「ところでその景品、中身は何なんだ?」
新開が尋ねる。
荒北と悠人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
箱を開けると、折り畳まれて入っていたのは……ウサ耳のついたカチューシャだった。
「なにそれ。そんなの欲しかったのか?」
新開が不思議そうに覗き込む。
「バァカ。オメーが付けンだよ!」
「隼人くんにプレゼントだよ!」
「えっ!」
新開は二人に無理矢理ウサ耳カチューシャを頭にはめられた。
「酷いなぁ。目立つよコレ」
新開は自分の情けない姿をガラスに映してしょんぼりしている。
「隼人くん……可愛い」
悠人はモキュ~ンとしている。
「似合うぜ新開。惚れちまいそうだ」
「えっ!!」
「冗談だバァカ」
冗談だと言われたが、それでも新開は嬉しくてそのまま装着し続けることにした。
「三が日だしな。街中お祭り騒ぎだから全然違和感ねーよ」
「うん。今日ずっとはめてるよ」
新開はニコニコしている。
「……」
荒北の言動に一喜一憂する新開の姿を見て、本当に彼が好きなんだなぁ、と悠人は思っていた。
〈ヒーメヒメ!ヒメ!
スキスキダイスキ〉
付近の太鼓系リズムゲームからテンポの良い歌が流れてきた。
「ん?この歌どっかで聞いたことあンな」
「オレもどこかで……インターハイ?いやまさかな」
新開と荒北の脳にはサブリミナル効果で刻み込まれているようだ。
(注:実際は位置的にそんな筈ない)
「これ、アニメだよ。オレは観てないけど聴いたことはある。今人気みたいだよ」
悠人の方が二人よりは詳しいようだ。
「よっしゃ!次はソレだ!」
「よーし!」
荒北と悠人は早速バチを握る。
「なんかおめさん達、息ピッタリだな」
新開は半ば呆れていた。
〈ヒメ!ラブヒメファイト!〉
二人は次々とコンボを決め、ギャラリーが出来ていた。
〈もう一回遊べるドン〉
「新開!やろうぜ!」
「お、オレはもういいよ。二人でやってて」
新開は全くスコアが伸びず、ヘトヘトだった。
「ったく、オメーはホントにチャリ以外はダメダメだなぁ」
「面目ない」
新開は笑顔で手を振る。
その様子を悠人は不思議そうに眺めていた。
隼人くん……ゲーセン系はホントにダメなのか。
負けてもオレみたいにムキになって勝つまで張り合ったりしないんだ……。
負けても悔しくないんだ……。
靖友くんにからかわれても全然平気なんだ……。
むしろすごく楽しんでる。
あんな笑顔……するんだ……。
悠人は新開の新たな面を今日はたくさん見ることになり、驚いていた。