小さなキューピッド (長編10頁)
「ンじゃ、まずはボウズの実力を見せてもらうとすっかァ」
「実力?」
荒北は新開兄弟を連れてゲーセンへ入って行った。
通信対戦のカーレース台に3人並んで座る。
「ガ、ガキじゃあるまいし、こんなレースゲームで何が……」
悠人は不満気だ。
「ボウズ、オマエ仮にもロードレーサーだろ?瞬発力、判断力、危機回避力、そして勝ちへの執着がこれで判るんだヨ。さぁ、始まんぜ!」
画面ではカウントダウンが開始され、ゲームがスタートした。
……結果は荒北の圧勝。
悠人は最下位だった。
「ま、こんなモンか」
荒北は席を立つ。
「……待て!」
「あァ?」
悠人が声を発する。
「もう一度だ!」
悠人は100円玉を入れた。
「……へェ」
荒北はニヤリと笑い、再び席に着く。
新開はリタイアして、二人の後ろから見守ることにした。
……結果は悠人の負け。
しかし、1回目よりはタイムが縮まった。
「もう一度!」
「何度でも付き合ってやんぜ、ボウズ」
「もう一度!」
「もう一度!」
「もう一度!」
・
・
・
「ぃやったーー!勝ったーー!勝ったぞーー!!」
12回目の挑戦でやっと悠人は荒北に勝利した。
飛び上がってガッツポーズをとる悠人。
いつの間にか周囲にはギャラリーが出来ていて、悠人は拍手喝采されていた。
「二人共、お疲れ様」
新開は笑顔で二人にドリンクを差し出した。
「隼人くん!オレ、勝ったよ!」
「ああ、よくやった。瞬間はちゃんと動画で撮っといたよ。帰ったらゆっくり見ような」
「うん!」
「靖友、手加減したのか?」
「ガチで負けたんだヨ!嫌味か畜生!」
新開の手からベプシを引ったくって怒鳴る荒北。
ゼェゼェ言っている。
荒北はふと、クレーンゲームに目をやり、おもむろに100円玉を1枚投入した。
「悠人ォ!」
荒北が悠人を呼ぶ。
「え?」
……ボウズじゃなく、初めて名前で呼んでくれた……?
「ホラ。ご褒美だ」
荒北がポンと投げて寄越したのは、パワーバーバラエティ10本パックの袋だった。
「どうせすぐ腹減るんだろ。道中これかじってろ」
「あ……」
「ありがとな、靖友」
「オメーにやったんじゃねーよ」
悠人はお礼を言おうとしたが、新開に先に言われてしまった。
「ったく。今日はオメーと二人きりだと思ったからイソイソと出てきたのによォ……」
「え?なんて?ごめん、今聞こえなかった」
「なんでもねーよ」
ゲーセンの中はあらゆる音が鳴っていて、普通の声量では会話にならない。
「靖友くん」
「あ?」
悠人は不思議そうに聞いた。
「今、これ獲る時、100円玉1枚しか入れてなかったよね?」
「それがどうした」
「このパワーバー、1本150円ぐらいするのに、10本入りをたった100円で……?」
「……」
荒北は悠人の疑問をキョトンとして聞いていたが、すぐにニヤリと笑い、悠人の頭にポンと手を置いて説明した。
「いいか悠人。ゲーセンをガキの遊び場とナメんな。ここは世の中の縮図だ。弱肉強食の実力社会だ。ゲームってのァ、必ず勝つ方法がある。それに気付けるか気付けないかで人生は大きく変わるんだ」
「……」
悠人は真剣に耳を傾けている。
「このパワーバーを獲るのに3千円かかる奴もいる。そういう奴が多いから店は儲かる。だが、技術を磨けば100円で獲れるようにもなる。賢く立ち回れば、安く1日中遊べるんだぜ」
「……」
悠人は目が輝いてきた。
「クレーンゲーム、やってみっか?」
「うん!」
荒北は悠人に台選びから知識を伝授し始めた。
そんな二人の様子を、新開は微笑ましく眺めていた。